Niantic「Lightship VPS」がAR活用に与える影響とは

「ポケモンGO」などの開発を通じて、世界にAR体験を広めたNiantecは、AR開発やメタバース市場の開拓に向けた、更なる技術開発やサービス提供に努めています。

この度同社が発表した「Lightship VPS」も、更なるAR技術の進化やメタバース空間の充実を促すとして、広く注目されています。この記事では、同社の新技術であるLightship VPSの役割や期待される効果について、解説します。

Niantic「Lightship」について

LightshipはNianticが2021年11月に発表した、AR開発者向けのプラットフォームサービスです。このプラットフォームは同社の看板タイトルでもある「ポケモンGO」の開発にも採用されていたもので、強力なAR技術開発やサービス開発に応用ができます。

Niantic transcends Discord to build Campfire, an AR social network, and unveils Lightship VPS
Niantic transcends Discord to build Campfire, an AR social network, and unveils Lightship VPS (Niantic)

Lightshipの根幹を支える機能が「ARDK」と呼ばれるもので、これは以下の3つの要素から成立しているのが特徴です。

Real-Time Mapping

Real-Time Mappingは、AR上にリアルタイムで現実世界をマッピングする技術です。ARDKに搭載されているメッシングAPIを使用することで、スマートフォンのカメラセンサーからカメラが捉えている地形や地表を詳細に分析します。

また、プラットフォーム上で生成されたメッシュマップはセッションを通して動作し続けるため、ユーザーの動きに合わせた空間の拡張や改善が行われる点も特徴です。

Understanding

Understandingとは、同プラットフォームが周辺環境を理解するためのセマンティックセグメンテーションAPIを指すものです。周辺環境を深く理解することで、ARオブジェクトを現実空間に対してごく自然な形で配置したり、あるいは消えたりする描写を手助けします。

地面や空、水中などの環境を即座に把握できるので、例え創造物であるARオブジェクトであったとしても、極めて自然な形での表現が可能です。

Sharing

Sharingは、ARを複数のユーザーで同時に体験できることを表すものです。ARDKの採用するマルチプレイヤーAPIを使用することで、最大5人のプレイヤーが体験を共有できる環境を、開発者は特別な設計なしにユーザーへ提供できます。

バックアップにはP2Pネットワーキングスタックと管理サーバーが控えており、シームレスで負荷が小さく、それでいてラグの少ない体験を提供します。

Lightship VPSとは

そんなLightshipに追加される形で新たに登場したサービスが、Lightship VPSです。VPSはVisual Positioning Systemの略称で、プレイヤーの位置や向きをデバイスから探知し、センチメートル単位でのARコンテンツ配信を実現します。

正しい方向からのアプローチや、極めて正確な位置情報を活用したエンターテイメントや現場作業に最適な機能となっており、強力な没入感覚をユーザーに届けてくれます。

従来の位置情報サービスといえばGPSが主流でしたが、VPSはGPSありきで動作するものの、併用することでより高い精度の位置情報特定を支援します。

すでにGoogleやAppleが提供するサービスにもVPSの実装は進みつつあり、今後のテック開発において重要な地位を占めると考えられています。

Lightship VPSの仕組み

The Metaverse Park  Niantic Lightship Global Jam  AR & VR experience
The Metaverse Park Niantic Lightship Global Jam AR & VR experience (Niantic)

Lightship VPSは、現実世界の空間情報をアプリケーションに伝える上で重要な役割を果たします。そのため、同システムにはあらかじめ特定地域のエリア情報をマップデータとしてインプットされており、そのデータをもとに極めて正確なAR体験の提供を実現しています。

VPSの正確な運用のためには、対応エリアにおける正確なスキャンデータが必要です。NianticではARサービスの提供に伴い、ユーザーから膨大なスキャンデータの提供を呼びかけてきたと共に、専門の測量士の力を借りて現実空間をデジタルデータ化したことで、3Dマップの作成に努めています。

大規模なマップ作成はデータの蓄積とリソースがなければできず、個人での開発は非常に困難です。今回、Lightship VPSという形でVPSを比較的多くの人に利用できるようになったのは、AR開発市場において大きな進歩と言えるでしょう。

Lightship VPSの提供エリア

The Metaverse Park  Niantic Lightship Global Jam  AR & VR experience
The Metaverse Park Niantic Lightship Global Jam AR & VR experience (Niantic)

2022年5月、Lightship VPSはサンフランシスコ、ロサンゼルス、シアトル、ニューヨーク、ロンドン、東京の6都市、ロケーション数にして3万を超える地域で利用ができるサービスとなっていました。

それぞれのロケーションは複数のデータから構成されており、直径にして10メートルほどの大きさになります。ロケーションの範囲内であればユーザーはどこでも正確な位置情報を特定できるため、広範囲でVPSを使ったAR体験ができる環境が整っていると言えるでしょう。

また、Lightship VPSの対応エリアは現在も拡張を続けており、日本では6月より東京に加え、大阪と京都、奈良への対応を開始したことを発表しています。

年内には年内に東名阪の3大都市圏と政令指定都市の主要部にVPSの提供エリアを拡大していく計画とされており、日本では全国的にVPSが利用できるようになるでしょう。

参考:ケータイWatch

Lightship VPSがARに与える影響

Lightship VPSの導入が進めば、よりリアリティのあるAR体験をユーザーに届けられるようになります。

VPSの活用事例

VPSの活用例としては、以下の動画が参考になります。

ARとVPS技術によるDX実証実験 | SOCIAL INNOVATION WEEK SHIBUYA 2019

こちらはLightship VPSを採用したコンテンツではありませんが、ARにVPSを実装することで、ユーザーの方角や極めて正確な位置情報を生かしたAR体験を届けていることがわかります。

ユーザーがARカメラを空に向けると、今日の天気情報が画面に表示されたり、交通標識の感覚で気球が道路の方面を伝えていたりと、いずれも適切なユーザーの位置関係がわかっていなければ表示ができないコンテンツです。

従来のAR技術というのは、あらかじめ指定された場所にオブジェクトをなんとなく浮き上がらせたり、ARバーコードが貼り付けられた場所にのみオブジェクトが現れたりといった表現に留まっていました。

VPSをARに実装することで、このような表現における制約がなくなり、スマホのようなAR対応のデバイスさえ用意できれば、いつでも対応エリア内で自由にARを使ったコンテンツ発信が行えます。

VPSがより身近になる効果にも期待

これまで、VPSはAR運用の可能性を広げてくれる技術として注目されてきたものの、データ収集などの負担が大きく、実際に導入するためには多くのリソースが求められてきました。

Lightship VPSが公開されたことで、多くの開発者がVPSを気軽に取り入れられるようになったことは、この問題を解消する大きなきっかけとなるでしょう。身近に高度な技術を実装できる環境は、AR体験をより身近に、高度にしてくれると期待できます。

Lightship VPSを支えるサービス

Lightship VPSをより身近に運用できるよう、Nianticは複数のサービスを展開し、運用を支援しています。

Campfire

Campfireは、Nianticが提供する開発者とユーザーが交流を重ねるためのプラットフォームです。マップを起点としながら、人やイベントとの出会いを促し、コミュニティの形成をすすめ、現実世界と仮想世界を結ぶホームページのような役割を果たします。

現実世界でSNSのようなソーシャルな活動を実現することを助け、更なるサービスやコンテンツの開発を促進する狙いがあります。

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8th-Wall-WebAR-platform
8TH WALL AR Platform

8TH WALLは、Nianticが2022年3月に買収したWebAR開発プラットフォームです。アプリをインストールしなくとも、Web上で開発者や業界関係者がモバイルデバイスから簡単にARコンテンツへアクセスできるため、AR利用のハードルを下げてくれます。

また、8TH WALLはすでにLightship VPSへの対応も完了済みとなっており、ブラウザ上で最新のVPS技術を生かしたコンテンツ体験が可能です。次世代のAR体験を気軽に試せる環境が整っているのが最大の強みです。

8TH WALLは以下の弊社のブログでも紹介しています。

【8th Wall】WebAR開発プラットフォーム 使い方と特徴まとめ

みなさんは「8th Wall」というWebAR開発プラットフォームをご存じですか? この記事では「8th Wall」の機能や特徴を解説します。AR開発の入門にもってこいなプラットフォームなので、参考にしてください。

Niantic Ventures

Niantic Venturesは、未来のAR技術を率いるリーダーシップを発揮する組織に対して資金を提供するための団体です。

ベンチャー投資家やエンジェル投資家とともに、初期段階にあるARに関係する企業をピックアップしながら、ARエコシステムを支える土壌を整備しています。

AR開発における資金面での問題を解決することで、有望なプロジェクトが絶えてしまわないよう支援を続けています。

まとめ

Nianticは単なるARアプリ企業にとどまらず、AR開発に必要なサービスを提供する、業界でも重要度の高い役割を果たすプラットフォーム企業として活躍しています。

同社の開発プラットフォームであるLightshipは、より多くのAR開発者にとって業務効率化やリソース不足の解消を促す効果が期待でき、優れたARアプリを開発してきた実績もあることから採用数は多大なものになることが予想できます。

また、新たに提供が開始されたLightship VPSは、ARのポテンシャルをさらに引き出す機能をARアプリに提供するだけでなく、小規模な開発者の手に届きづらかった最新技術をフル活用できるサービスとなっています。

VPS活用をサポートするサービスも充実しつつあり、日本での利用環境も整っていることから、今後は日本発の最新AR技術が世界に飛び立っていくことも十分にありえるでしょう。

ONETECHではベトナムでWebXR(AR、VR)の開発を実施しています。VPSをはじめ様々なXR界隈の応用や研究もおこなっています。もしVPSなどのご興味ありましたら一度お話をお聞かせください。

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