VR(仮想現実)は、現実には存在しない空間を体験するための技術として進歩してきましたが、今日ではこの方向性とは少し異なる運用方法も注目されています。VR技術を使ったテレイグジスタンスは、仮想空間ではなく実在する場所を遠隔から体験し、まるでそこへ本当に足を踏み入れたような感覚を提供してくれる技術です。今回はテレイグジスタンスの概要について、ご紹介します。
テレイグジスタンスとVR(バーチャルリアリティ)
テレイグジスタンスは日本語に訳すと、「遠隔存在」という言葉が当てはまります。
これはつまり、バーチャル空間の代わりに現実の世界をVR技術で表示させ、その場所の体験をリアルにユーザーへ届けようという取り組みです。
テレイグジスタンスの仕組み
テレイグジスタンスを実現するために必要なのが、VR装置とロボットの存在です。まず、テレイグジスタンスを体験するユーザーはVR機器とコントローラーが提供されます。
そして、ユーザーが体験する遠隔地には、ロボットを設置します。このロボットから、ユーザーは視覚をはじめとする様々な情報をインプットするという仕組みです。
ユーザーはコントローラーを使って、ロボットを移動させたり、首の挙動で視界の方向を自由に変えることもできます。
まるで現地にいるかのように、VRを通じてあらゆる体験をリモートで味わえるのが、テレイグジスタンスという技術です。
Video “TELEXISTENCE” is a concept that was first proposed in 1980 by Dr. Susumu Tachi
5G通信の普及でさらなる発展も
テレイグジスタンスという技術の概念は、1980年代から提唱されてきました。しかしそれでもなかなか実現に至らなかったのは、通信環境の整備が追いついていなかったことが理由として挙げられます。
テレイグジスタンスはただ動画や音声を送受信するだけではなく、リアルタイムでユーザーの挙動を現地のロボットに反映しなければならない、という問題があります。
これを実現するとなると、従来の通信回線ではとても不可能に近く、導入には大きなラグや画質の劣化などが懸念されてきました。
しかし、2020年より運用が始まっている5Gを活用することで、テレイグジスタンスという技術にも脚光を浴びるようになってきました。
5Gの通信回線はスマホなどの利用に良い影響をもたらすだけでなく、ロボットの操縦など、大きな情報をリアルタイムでやり取りする際にも役立ちます。
IoTやAIの活用にも期待されている5Gですが、テレイグジスタンスは5Gによって普及し得るテクノロジーの一つとして紹介されるようになるでしょう。
テレイグジスタンスで得られるもの
テレイグジスタンスは従来のコミュニケーションとは異なり、まるでユーザーがその場にいるような感覚を提供してくれる技術です。
具体的な事例については、すでにKDDIが実践的なレポートを公開しています。
まるで現地にいるような感覚を得られる
KDDIが実験的に行ったのは、小笠原諸島の父島をテレイグジスタンスで観光するというものです。
操縦者は東京の竹芝ふ頭から父島のロボットを操作するというものですが、操縦者が右手をあげればロボットも右手をあげるし、操縦者が左を向けばロボットも左を向くという、驚異の連動性能を発揮しています。
参考:TIME & SPACE「テレイグジスタンスで遠隔旅行! ロボット×VRで「感触」まで伝わる小笠原観光」
https://time-space.kddi.com/au-kddi/20181017/2468
従来のVRは現実とは隔絶した世界を体験するものでしたが、こちらはリアルタイムの、しかも現実に存在する世界を体験できるということで、その臨場感は圧倒的なものであると考えられます。
またロボットを使って握手をすれば、ユーザーにも握手をした時の力を実感でき、カメを触れば甲羅の感触も味わえるなど、インタラクティブな体験が目白押しとなっています。
ビデオ通話などとは全く異なる新体験
このような臨場感のある体験を踏まえると、テレイグジスタンスという技術レベルの高さと、従来の通話やテレビ電話とは明らかに違うこともわかります。
テレビ電話を使った会議などは、すでに日本でも一般的な業務として定着しつつありますが、これがテレイグジスタンスとなれば、よりリアリティのあるコミュニケーションを、リモートで実現できるようになるでしょう。
テレワークやリモート会議にも限界はあるとは言いますが、テレイグジスタンスが今後普及していけば、体験をさらに拡張していくことができるかもしれません。
リモートでは実現し得ないと言われたインタラクティブなコミュニケーションが、実現する可能性も出てきます。
おわりに
テレイグジスタンスの登場は、観光業界はもちろんのこと、コミュニケーションが重要な地位を占めるビジネスの現場において大きなインパクトを残すことになるかもしれません。
5GやVR、ロボットがより広く普及することで、テレイグジスタンスがさらに身近になる可能性も考えられます。どれだけ地理的に離れた場所であっても、この技術があればリアルタイムで現地へと足を運ぶことが可能になるかもしれません。
ONETECHは、ベトナムオフショア開発でAR/VR関連の開発実績が多数ございます。AR、VR、XR開発、UNITY開発、3DCG制作でお困りのことがあればお気軽にお問い合わせください。