オンラインショッピングサイト大手のAmazonでは、自社の技術力を生かしたテクノロジー産業への参入も積極的に進めています。この度日本でも名前を聞く機会が増えている「Amazon Lexチャットボット」もまた、Amazonのハイテクを気軽に利用するためのサービスに仕上がっています。
今回は、そんなAmazon Lexチャットボットがどんな効果を発揮するのかや、その活用方法などについて、ご紹介していきます。
Amazon Lexチャットボットとは
Amazon Lexは、Amazonが展開しているクラウドプラットフォーム「AWS」のサービスの一環として、提供がスタートしたものです。
音声やテキストといった自然言語情報をAIが分析し、ユーザーとの対話を可能にするアプリケーションを構築できるAmazon Lexは、従来のAIプラットフォームよりも遥かに高度なプログラムをデプロイできるということで、注目が集まっています。
取り上げたきっかけは弊社がベトナムオフショアで開発するプロダクト「HOUSE DÉCOR VR(ハウスデコVR)」のチャットボットにAmazon Lexを採用したからです。
Amazon LexはAmazon connectでのクラウドコンタクセンターのフローの中で顧客との会話の前後関係を理解して顧客の入力情報に応じた自然の会話を実現しています。
参考: https://aws.amazon.com/jp/lex/
Alexaと同等の会話型AIを作成可能
Amazonが手がけるAIサービスといえば、もっとも代表的なのがAmazon Alexaです。ホームスピーカーなどのスマートデバイスを通じて、Alexaに対して呼びかけを行うことで、さまざまなコマンドの実行が可能になります。
日本でも少しずつ普及が進んでいる同サービスですが、Amazon Lexの最大の特徴となっているのが、そんなAlexaと同等の会話能力を学習可能であるという点です。
Alexaの高度な自然言語能力の高さは、これまでの普及状況からもお墨付きと言えますが、Amazon LexはそんなAlexaの深層学習技術と同じ技術を利用できるということで、一躍話題を集めました*1。
もちろん、Alexaほどの高度なAIを自前で構築するためには、データベースの用意など、Amazon Lexだけでは対応できない範囲にも注力しなければいけません。
しかしそれでも将来的なポテンシャルとして、同サービスで構築したAIは、Alexaレベルのパフォーマンスを発揮する可能性を秘めています。
日本語対応でさらなる活躍に期待
日本で大きな話題となっているもう一つの理由が、日本語対応です。これまでAmazon Lexは英語圏を中心に提供が進められてきたため、日本語が公用語の日本ではそこまで注目はされてきませんでした。
しかしこの度2021年4月、Amazon Lexは日本語にも正式に対応することを発表し、日本の技術者や企業を大いに注目させました*2。
英語よりも複雑な言語体系をもつ日本語は、AIに学習させることが難しい言語とも言われてきました。しかしAmazon Lexの採用により、AI開発をよりスムーズに進められる可能性が出てきたわけです。
Amazon Pollyとの併用も可能
またAmazonは、そんな難解な日本語のAI学習を容易にするためのサービス「Amazon Polly」を提供しています。
これは文字で書かれたテキストを音声に変換し、AI学習をサポートするためのもので、Amazon Lexとの組み合わせによって、さらに高度な学習を進められる可能性が出てきています。
Amazonのサービスだけを使って高度なAI開発を進められるということで、AI業界ではAWS製品のさらなる普及が進むとも考えられます。
Amazon Lexを導入するメリット
複数の言語に対応している
Amazon Lexの特徴として、複数の言語に対応していることが挙げられます。
上記に挙げた日本語や英語はもちろんのこと、フランス語やドイツ語、イタリア語、スペイン語といった、多様なヨーロッパ言語に対応しているのが特徴です*3。
韓国語や中国語など、まだまだアジアの言語については未対応となっていますが、日本語が登場したこともあり、今後さらなる言語対応が進められていくことが予想されます。
音声対応ができる
音声からテキストへ変換して処理するAIサービスは他にはあまり見当たりませんでした。テキスト入力だけでなく音声入力でも処理できるという点もメリットの一つと言えます。
扱いやすさに優れるコンソールを活用できる
Amazon Lexは高度なサービス開発ができるだけでなく、扱いやすさにも優れているのが強みです。
わずか数分もあれば独自のチャットボットを作成し、会話型インターフェイスも短時間で組み込めるよう、ユーザビリティに優れたコンソールが備わっています。
短いステップの中で、いくつかのサンプルケースを読み込ませれば、すぐに基本的な対話型AIを構築できる仕様となっています。
AWS環境へシームレスに統合可能
Amazon LexはAmazonが提供するサービスということもあり、AWSとの相性が良い点も特徴です。AWSプラットフォームのセキュリティやユーザー認証、ストレージ、開発環境などと互換性を発揮します。
AWSとのシームレスな統合を実現するため、すでにAWS環境を構築済みの場合には是非活用したいサービスです。
コストパフォーマンスに優れている
Amazon Lexは高機能でありながら、高いコストパフォーマンスを有している点も魅力です。前払いが求められたり、最低利用料金などは発生したりはしないため、純粋に使いたい分だけ、利用できるのが強みと言えます。
また、無料利用枠も用意されているため、まずはお試しで利用したいという方にとっても魅力的なサービスです。
チャットとバックエンドのデータの連携がスムーズ
AWS Lambda(ラムダ)でバックエンドとのやり取りをするので簡単です。ロジックを修正した場合はLambdaで修正します。Lambdaでデータベースからデータを直接引っ張ってくるのでシステムパフォーマンスが良い点も挙げられます。
Amazon Lexを導入するデメリット
一方で開発時に苦労した点(デメリット)をあげておきます。
UIテンプレートやカスタマイズのしにくさ
サンプルプロジェクトはありますが、UIテンプレートやUIカスタマイズサポートはあまりありません。UIを自分でコーディングする必要があります。
AWSのUIの導入
https://aws.amazon.com/blogs/machine-learning/deploy-a-web-ui-for-your-chatbot/
AWSエコシステムに精通していない場合は、導入にはかなり時間にかかります
他のチャットボットは簡単に導入可能です。UIテンプレートがありパターン化されていることが理由です。
ONETECHがチャットボットにAmazon Lexを採用した理由
ONETECHは2021年中に自社プロダクト「HOUSE DÉCOR VR(ハウスデコVR)」を制作しています。HOUSE DÉCOR VRは、ハウスメーカーがお客様に新築住宅をVRでプレゼンできるツールです。ハウスメーカー様の営業支援としてチャットボットの導入を考えていました。
AWSサービスに精通
理由は、HOUSE DÉCOR VRはできるだけAWSファーストの選択肢をとっています。ONETECHはオフショア開発で多くのAWSの構築、活用実績があります。今回のプロダクトではサーバーレス、運用の自動化なども目指しています。上記に記載しているメリットとデメリットを他のサービスとも比較しました。その中でAWSが提供しているAmazon Lexを選択しました。
比較したチャットボットサービス
- IBM Watson assistant
- Microsoft Bot Framework
- Pandorabots
- AWS Chatbot(Lex)
- Ada
Amazon Lexの具体的な活用方法
Amazon Lexのメリットを生かすためには、どのような使い方が望ましいのでしょうか。ここで一般的な同サービスの活用方法について、確認しておきましょう。
高度な音声アシスタント機能の実装
一つ目の活用方法は、音声アシスタント機能の実装です。例えばコールセンター業務をAmazon Lexで開発したAIに任せ、自動化することができます。
数字入力や本人確認など、これまでは人間のオペレーターでなければ対応が難しかった業務も、顧客の音声を直接読み取れるようになったことで、手続きをAIで自動化できます。
住所やパスワードの変更、予約サービスなど、活用方法は多彩で、ほぼ全ての電話業務を自動化できます。
日常的に利用可能なAIの開発
カスタマーサポート以外にも、Amazon Lexは対応できます。例えばAlexaのような、日常生活に特化した音声アシスタントを、自前で利用できるようになります。
従来であれば他社サービスを利用しなければ実装できなかったようなIoT機能も、Amazon Lexによって自社開発を実現し、製品の顧客満足度とブランド力を高められます。
ユーザビリティに優れるアプリの開発
スマホなどで利用するアプリの開発にも、Amazon Lexは役立ちます。チケット予約や個人情報の入力を音声で行ったり、入力そのものを自動化したりと、煩雑な手続きを簡素に提供します。
会員登録などを簡略化して満足度を高めたり、タクシーの乗車リクエストやチケット予約をワンタップで行えるよう促したり、利用率の向上に活躍させられます。
バックオフィス業務の支援
カスタマー向けの機能だけでなく、組織内部で利用するための機能も実装可能です。チャットbotを活用して、必要な顧客データをデータベースから直接引っ張ったり、ヘルプデスク業務を自動化したりと、あらゆる情報のインプットとアウトプットをAIに頼ることが可能になります。
また、AWS Lambda関数と併せて利用することで、他社製品のバックオフィス向けツールと連携することも可能となるなど、高い拡張性を他のAWS製品との併用で獲得できます。
WebのUI導入
AWSでサンプルプロジェクトがありますので参考に実装してください。
https://aws.amazon.com/blogs/machine-learning/deploy-a-web-ui-for-your-chatbot/
Amazon Lexの導入事例
Amazon Lexの日本語対応は2021年に始まったばかりであるため、国内での導入事例はまだまだ限られています。とはいえ、日本に先立ってAmazon Lexの導入が進められていたアメリカなどでは、すでに大企業をはじめとする多様な組織で活躍している様子がうかがえます。
GE Appliances
アメリカの大手家電メーカーであるGE Appliancesでは、一ヶ月あたり数百万分にものぼる膨大なカスタマーコールをAmazon LexのAIによって自動化しています。
製品情報の確認や顧客情報の確認など、オペレーターに接続するほどではないよくある質疑応答を自動化し、業務の効率化を図るだけでなく、顧客を待たせてしまうことのない、満足度の向上につなげています*4。
Dynatrace
グローバルで活躍するテクノロジー企業のDynatraceでは、複雑化していたUIを、Amazon Lexの力でシンプルなものに置き換えることに成功しています。従来通りの複雑な業務遂行を、従来よりも遥かに扱いやすくなったソリューションへと移行したことで、業務のスピードと質の向上に役立てられています*5。
Square
スマート決済サービスを提供しているSquareでは、顧客との関わりをより効率よく行うためのシステム開発を実現しています。
Amazon LexとAWS Lambda、Amazon Connectを併用することで、顧客のリクエストに対して最速で対応ができる環境を整備し、顧客満足度の向上と、セールス体験の改善につなげています。
同社ではすでにAmazonのクラウドサービスを導入していたこともあり、運用環境が大きく変更されることもなく、スムーズに導入を進め、結果につなげることができたということです*6。
おわりに
今回は、Amazonが提供するAIプラットフォームのAmazon Lexについてご紹介しました。まだまだ日本では本格的な導入は行われていないものの、日本語対応が進んでおり、海外では導入事例も豊富であることから、今後国内でも活躍が期待されています。
導入ハードルもAIソリューションとして比較的容易な部類とされるため、AI活用の一歩をこちらのサービスから踏み出していくのも良いでしょう。
参考:
*1 IT Media News「Alexa同様の会話理解力を持つ「Amazon Lex」、日本語で会話する音声botの開発が可能に」
*2 AWS「Amazon Lex が日本語に対応。東京リージョンでお使いいただけます」
*3 上に同じ
*4 AWS「Amazon Lex」
*5 上に同じ
*6 上に同じ