土木業界の仕事をするなかで「技能者」と「技術者」の違いがわからないとお悩みの人も多いでしょう。また、具体的にどのような仕事の違いがあるのか、自分はどちらを目指すべきなのか悩んでいる人も少なくないはずです。
そこでこのコラムでは、技能者と技術者の違いについて解説します。また、技能者・技術者それぞれに向いている人の特徴も解説しているので、2つの違いをチェックしてみてください。
技能者とは

技能者とは、工事関連業務に従事する労働者のことです。例えば国土交通省では、次のような人たちを、すべて技能者という枠で説明されます。
- 建設業の生産工程従事者
- 建設・採掘従事者
- 輸送・機械運転従事者
なお、工事現場などでは、後述する技術者と技能者の中間に位置する登録基幹技能者や現場を取りまとめる上級職長などの人材もいます。具体的な定義はないものの、現場作業に関わる仕事をしている人材のうち、工事作業をメインに担う人たちが該当するイメージです。
外国人技能労働者とは
近年では、建設業界における少子高齢化の問題を解決するひとつの施策として、外国人技能労働者の獲得に力を入れ始めています。文字通り外国人に現場で作業してもらうという位置づけであり、国内の人材不足解消を狙います。
なお外国人が日本の技能労働者として働くためには、厚生労働省が実施している「外国人技能実習制度」を終了することが欠かせません。
技術者とは
技術者とは、土木関連等の知識・技術に精通している従事者のことを指します。一般的には、施工管理や設計に関する知識がある人材のことを指し、国家資格である「技術士」「建築士」「施工管理技士」といった資格を取得した人などが技術者として働いています。

参考として以下に技術者に関わる人材の特徴を整理しました。
監理技術者 | 建設工事・設計業務の責任者 |
照査技術者 | 業務進行や適用した示方書等の条件が正しいのかをチェックする専門の人材 |
担当技術者 | 監理技術者のもと、工事・設計業務の作業を担う人材 |
主任技術者 | 工事現場で指示を出す人材 |
国土交通省が公開している「技能労働者」という資料のなかでは、発注者から直接委託を受ける元請けとして、上記4種(主任技術者のみ現場)の役職を配置するようにツリーがまとめられています。
一般的には、前述した技能者よりも上の立場にある役職です。
技能者と技術者の違い
言葉として似ている「技能者」と「技術者」にはさまざまな点に違いがあります。以下では、6つの相違点を整理しました。
業務内容の違い
まず技能者は、工事業務などをメインに対応するのが仕事です。
建築資材の運搬や設置、施工などに対応するのはもちろん、工事現場で指導をする主任技術者の指示に従いながら、計画やスケジュールを遵守して工事業務を進行していきます。
次に技術者は、主に工事・設計に携わりながら、技能者の指導をおこなう主任技術者へ指示を出す仕事です。設計や施工計画の立案といった検討業務から始まり、現場の状況にあわせながら適切な動き方を指示する、さらには発注者との打ち合わせなどにも対応します。
必要スキルの違い
技能者の場合は、工事を計画的に進行するスキルや、次のような工事作業の能力が必要です。
- タスク管理
- 資材や建材の運搬
- 資材や建材の組み立て
計画で決められているスケジュールやタスクにあわせながら動くことから、身体を動かすことに特化したスキルが求められます。
また技術者は、計画検討など頭脳を活かしたスキルが必要です。設計や工事全般の知識力が必要なのはもちろん、臨機応変な対応力といったスキルが求められます。
工事形態の違い
技能者と技術者では、技術者のほうが上の立場にあります。
技術者が検討した設計内容や工事スケジュールに合わせて、技能者などの下請け業者が工事作業に対応します。
必要資格の違い
技能者の場合、中央職業能力開発協会が実施している「技能検定」の合格資格が必要です。なお、ひとつの現場に有資格者がいれば、資格を取得していない人材でも技能者として働けます。
また、技術者の場合は担当する業務によって必要資格が次のように異なります。
技術士 | 土木設計・工事に関わる業務の責任者として必要 |
建築士 | 建築設計・工事に関わる業務の責任者として必要 |
施工管理技士 | 工事管理をする人材に必要 |
RCCM | 土木設計業務の管理に必要 |
ほかにも、技術者として役立つ資格は豊富にあります。自身が土木・建築、また設計・工事のどこに携わるのかで必要資格が異なると覚えておきましょう。
従事難易度の違い
技能者は、あらかじめ決められている工事内容に合わせて動く仕事であるため、考える能力よりも、身体を動かす能力が重視されます。そのため、体力に自信がある人や関係者とのコミュニケーションが得意な人は、従事難易度が低いと言えます。一方で体力やコミュニケーションに自信がない人の場合、従事難易度が高まる点に注意が必要です。
また技術者は、検討スキルや分析力、臨機応変な行動ができる人などの場合には従事難易度が低いです。また資格取得などの勉強が得意な人にも向いています。一方で、勉強が苦手、頭脳を活かして仕事をするのが苦手な人にとっては、従事難易度が高いと感じるかもしれません。
年収の違い
厚生労働省が公開している職業情報提供サイト「jobtag」を参考として、以下に年収の違いをまとめました。
建築設計技術者 | 建築施工管理技術者 | 建設・土木作業員(技能者) | |
全国平均年収 | 632.8万円 | 632.8万円 | 411.1万円 |
年収については、元請けとして仕事を受注する技術者のほうが高額です。一方で、下請けとして工事業務を担当する技能者は、スキルがない状態から仕事をスタートできることから、平均年収がやや低めに設定されています。
技能者に向いている人の特徴
技能者としての仕事に興味がある人向けに、向いている人の特徴をまとめました。
自分のもつスキルや考えにあてはまる仕事なのかチェックしてみてください。
黙々と作業をするのが得意な人
技能者はあらかじめ決められたスケジュールにあわせて工事業務を進めることから、立ち止まらずに黙々と仕事ができる人のほうが向いています。
考えるよりも身体を動かす方が好きな人、重機などを操縦したい人におすすめの仕事です。
計画に合わせて行動するのが得意な人
自分で考えて動き方を決めるよりも、あらかじめ決められている計画に合わせて動くほうが好きだという人も、技能者に向いています。
もちろん、作業をする際には自分で考える場面も登場しますが、建設従事者の取りまとめなど、人を管理するのが苦手だという人は技能者として働くのがよいでしょう。
熟練技術を身につけたい人
ほかの人にはない手練れのスキルを身につけたい人は、技能者として経験を積むのがおすすめです。
「自分にしか操縦できない重機がある」「ほかの人よりもうまく、早く作業ができる」というポイントに魅力を感じている人は、技能者として熟練の技術を磨くとよいでしょう。
技術者に向いている人の特徴
これから技術者として活躍したいと考えている人向けに、必要とされる能力をまとめました。
現在目指している人はもちろん、今の自分が持ち合わせているスキルなのかをチェックしてみてください。
リーダーシップがある人
技術者として働きたいなら、業務を率先して進行できるリーダーシップが必要です。
設計・工事業務に携わる場合、業務の規模が大きくなるほど、複数名のチームで動くことが増えてきます。各担当者ごとに作業を分担しなければならないのはもちろん、密な連携を取り合いながら円滑に業務を進行しなければなりません。
そういった円滑な業務を実現するためには、技術者としての自覚をもつ人物がリーダーシップを発揮する必要があります。スケジュールの調整はもちろん、提案するスキル、軌道調整のスキルなど、リーダーとして人をまとめられるスキルを持ち合わせている人に向いている仕事だと言えるでしょう。
臨機応変な計画力がある人
技術者として働く際には、業務中に起こる問題にもすばやく対応できる臨機応変な計画力が必要です。
主に土木関連の業務は、地盤や河川などの自然を相手にして検討を進めていくことから、ときには予想とは異なる状況が起きる場合があります。「予定していた条件で設計できなくなった」「現場を確認したら調査状況と変わっていた」など、予期せぬ問題が発覚することも少なくありません。
そのため、技術者として業務を成功させるためには、その場その場の状況に応じてすばやく考えを切り替え、別の対応策を検討する臨機応変さが必要です。柔軟な考えをもつことはもちろん、豊富な知識をインプットしてすぐに解決策を導ける計画力を身につけましょう。
リスク管理が得意な人
技術者の仕事では、ミリ単位のズレも許されないことから、常にリスク管理を念頭において働かなければなりません。
例えば、作成した図面に間違いがないのかチェックすることはもちろん、参考出典として引用した条件に誤りがないか、最新の条件を用いているかなど、品質チェックが欠かせません。
なお土木設計業務の場合には、業務全体を管理する「管理技術者」のほかに、業務の進行や設計の内容に問題がないのかを確認する「照査技術者」などを置いて業務にあたります。また一担当者としても常に間違いがないのかなどを予測しながら動くことが重要であるため、業務全体におけるリスク管理が欠かせない能力だと言えるでしょう。
まとめ
技能者と技術者は、働く場所が違うことはもちろん、求められる知識やスキルなどにも違いがあります。また、それぞれ必要資格といった条件も異なる点にも注意しなければなりません。
技能者と技術者のどちらを目指すのかで、動き方が変化します。本コラムの情報を参考にしつつ、自分が目指すべきほうを検討してみてください。