既存オフィスビルのフルリノベーションをBIM化せよ!「現実の壁」と突破口はLiDAR×AI×自動化にあり

既存オフィスビルのフルリノベーション。この言葉を聞いて、ワクワクする設計担当者やDX推進担当者もいれば、「またBIM化か…」と頭を抱える方もいるかもしれませんね。DX推進が叫ばれる昨今、BIM(Building Information Modeling)導入はもはや避けては通れない道です。そのメリットは百も承知でしょう。
手戻りの削減、情報共有の円滑化、施工精度の向上、そして何より中長期的な運用コストの最適化。これからの建設業において、競争力を維持し、生産性を高めるためにはBIMは不可欠なツールです。
しかし、その道のりは決して平坦ではありません。特に既存オフィスビルのフルリノベーションとなると、新築案件とは異なる「現実の壁」が立ちはだかります。「BIM化のメリットは理解している、でも実際に取り組もうとすると…」そんな経営層や現場のリアルな声が聞こえてきそうです。
一体なぜ、既存建物のBIM化はこれほどまでに難しいのでしょうか?そして、その「現実の壁」を打ち破る、現実的な突破口はどこにあるのでしょうか?
本稿では、既存オフィスビルのフルリノベーションにおけるBIM化の課題を深掘りします。その上で、最新技術であるLiDARとAI、そしてその自動化がもたらす革新的なソリューションについて、建設会社やサブコンの経営層、設計・施工管理責任者、DX推進担当者、そしてBIM実務担当者の皆様に向けて、わかりやすく、そしてリアルな視点でお伝えしていきます。
DXF/DWGがあっても、なぜ既存建物のBIM化は容易ではないのか

「昔の2D図面があるから、それを元にBIMモデルを作ればいいじゃないか?」…そう考えた方もいるかもしれません。DXFやDWGといった2DのCADデータは、確かに昔からあるわけですから、手ぶらで現場に入るよりはマシ、と考えるのも無理はありません。しかし、この「2D図面がある=BIM化できる」という認識こそが、既存建物のBIM化を阻む、最初の、そして意外と厄介な「現実の壁」なんです。
2D図面と現況の不一致が常態化
既存建物、特に築年数の長いオフィスビルでは、竣工当時のDXFやDWGといった2D図面データが存在するケースは多いですよね。設計部門からそれらのデータが提供されると、「よし、これでBIMモデル作成もスムーズに進むぞ!」と一瞬、安堵するかもしれません。しかし、現場に足を踏み入れ、現況を目にした途端、「あれ?なんか図面と違うぞ…?」と首を傾げることもしばしば。いや、「しばしば」どころか、ほとんど「常態化」していると言っても過言ではないでしょう。
なぜこんなことが起こるのか。それは、建物が竣工してからの数十年、あるいはそれ以上の期間に、大小さまざまな改修や変更が繰り返されてきたからです。例えば、テナントの入れ替わりやオフィスのレイアウト変更に伴う間仕切りの追加・撤去、通信インフラの増強による配線ルートの変更、省エネ改修としての設備機器の更新など…。これらの履歴が、残念ながら全て図面に正確に反映されているケースは極めて稀です。
特に問題となるのは、天井裏や機械室、設備配管が密集するエリアです。これらの場所は、竣工図と実態が大きく異なることが頻繁にあります。図面上では一直線だった配管が、現場では梁を避けるために迂回していたり、既存のダクトとの干渉を避けるために複雑なルートを通っていたりします。しかも、これらの場所は目視での確認も困難で、狭いスペースに潜り込んで実測するとなると、時間も手間も尋常ではありません。
結果として、2D図面だけでは、フルリノベーションに必要な「正確なBIMモデル」を作成することは不可能に近い。「図面があるから安心」という認識は、残念ながら現実とはかけ離れており、結局のところ、人の目による現地調査と地道な実測が不可欠になってしまうわけです。これが、BIM化のプロセスにおいて、最初に立ちはだかる大きな障壁なんです。
既存建物BIM化を阻む最大の要因は「コスト」という現実
2D図面が使えないなら、ゼロからBIMモデルを作ればいい…という話になりますが、そこで次に立ちはだかるのが、最大の要因とも言える「コスト」の壁です。このコストは、単にお金だけの話ではありません。時間、人、ソフトウェア、そしてそれらを運用するためのノウハウ。これら全てが、既存建物のBIM化を現実離れさせているのです。
多大な人的リソースと熟練者への依存
既存建物のBIMモデリングは、新築とは異なり、まず現況を把握するための点群データ取得から始まります。そして、その点群データから建物の各要素(壁、柱、梁、床、天井、そして配管やダクトなどの設備)を一つずつモデル化し、さらにBIMとして活用するために必要な属性情報を付与していく必要があります。
この一連の作業、想像しただけでも気が遠くなりますよね。膨大な人手と時間がかかることはもちろん、そのモデリング作業は高度なスキルを要するため、熟練したBIMオペレーターへの依存度が極めて高いのが現状です。BIMソフトの習熟には時間がかかり、複雑な形状や既存建物特有の歪みなどを正確に再現するには、経験と知識が不可欠だからです。
しかし、建設業界全体を見渡せば、BIM技術者や、点群データを扱うAI・IoTエンジニアといった専門人材は慢性的に不足しています。少子高齢化が進む日本において、建設業の就業者数は2003年の約600万人から2023年には約480万人へと減少。さらに、55歳以上の割合は26.0%から35.9%に増加し、29歳以下の割合は17.7%から11.7%に減少しており、人材不足と高齢化は深刻な問題です。このような状況で、BIM化のための専門人材を確保・育成することは、並大抵の努力ではできないのが現実です。
高額なソフトウェアライセンス費用と導入障壁
BIM化を推進する上で避けて通れないのが、ソフトウェアの導入費用です。RevitやRebroといった主要なBIMソフトウェアは、その機能の豊富さゆえに、ライセンス費用も高額になります。
例えば、Autodesk Revitの年間ライセンス費用は約6.6万円(税込)/本です。複数台導入するとなると、それだけでもかなりの費用がかかります。設備BIMでよく使われるCADDiのRebro(総合版)は、買い切りで約110万円(税込)/本とさらに高額で、2年目以降は年間6.6万円(税込)/本の保守費用も必要になります。機能限定版のRevit LTなども存在しますが、それでも年間8万円程度の費用がかかるのが実情です。
ソフトウェア費用だけでなく、BIMモデルをスムーズに扱える高性能なハードウェア(PC、ディスプレイなど)の導入費用も一台あたり20万〜30万円程度かかります。会社全体でBIMを導入しようとすれば、この初期投資額はかなりの負担となるでしょう。特に中堅企業にとっては、BIM導入の主な障壁は初期投資コスト(ソフトウェア、ハードウェア、教育・トレーニング費用)と人材育成の課題にあると指摘されており、この「高額な費用」が導入への大きなハードルとなっています。
外注によるコスト増大とノウハウ蓄積の課題
「社内にBIM人材がいないなら、外部に委託すればいいじゃないか」と考える方もいるでしょう。確かに、BIMモデリング作業を専門業者に外部委託することは、スピーディーなBIM導入を可能にする一つの手段です。
しかし、これもまたコスト増大に直結します。外部に委託すれば、当然ながらその分の費用が発生し、プロジェクト全体のコストがさらに膨らみます。さらに大きな課題は、外注に頼り続けることで、自社内にBIMに関するノウハウやスキルが蓄積されにくいという点です。
BIMは単なる3D図面作成ツールではなく、情報の共有、ワークフローの改善、そして最終的には企業の競争力強化に繋がるものです。そのためには、社内にBIMを理解し、活用できる人材を育て、そのノウハウを蓄積していくことが不可欠です。外注にばかり頼ってしまうと、いつまで経っても「BIMは外部に頼むもの」という意識が抜けず、真のDX(デジタルトランスフォーメーション)には繋がりません。
なぜ短期的なコスト増大が経営判断を止めるのか
BIM導入のメリットは誰もが認めています。長期的に見れば、手戻りの削減、施工精度の向上、情報共有の円滑化、維持管理コストの最適化など、その投資対効果(ROI)は非常に高いとされています。年間5億円規模の工事を行う企業でのシミュレーションでは、BIM導入により手戻り削減で年間750万円、図面修正工数削減で年間約108万円の削減効果が見込まれるという試算もあります。また、BIMモデルからの積算用数量出力システムを1年足らずで構築し、平均1.41%の発注金額削減効果を実現した事例も存在します。
これだけ見れば、「すぐにでもBIM導入を!」となりそうですが、なぜか経営判断が躊躇してしまう。その裏には、短期的な視点での厳しい現実があるからです。
先行するキャッシュアウトとタイトな工期
BIM導入による業務効率化やコスト削減のROI(投資対効果)は、中長期的に見れば確実に「合う」と、多くの経営層やDX推進担当者は理解しています。これは建設業界に限らず、あらゆる産業におけるDX推進に共通する認識でしょう。
しかし、BIM化の初期投資は決して小さくありません。前述したソフトウェアライセンス費用、高性能なハードウェア導入費用、そして何よりも人材育成にかかる時間とコスト。これらは全て、成果が出るよりも先に発生する「キャッシュアウト」です。特に、キャッシュフローを重視する経営者にとっては、この先行投資が大きな心理的・財務的負担となります。
さらに、既存オフィスビルのフルリノベーション案件は、多くの場合、工期制約が非常に厳しいのが現実です。テナントの退去から入居までの期間が限定され、その中で設計・施工を完了させる必要があります。BIM化の初期段階では、むしろ既存業務に新たな作業負荷が加わり、一時的に工数が増大する可能性があります。
このような状況で、「BIM導入による一時的なコスト増大や作業負荷の増加が、タイトな工期に悪影響を与えるのではないか」という懸念が現場や経営層から挙がるのは当然のことです。結果として、「BIMのメリットは十分理解している。将来のためには必要不可欠だとも分かっている。しかし、短期的な財務的負担や工期への影響を考えると、今はまだ踏み切れない…」という、非常に現実的な経営判断が下されてしまう構造が存在します。これが、多くの建設会社やサブコンがBIM化に二の足を踏む、最大の理由と言えるでしょう。BIM導入には、既存業務フローとの整合性、データ活用のための体制構築、現場のITリテラシーの低さ、操作習熟の障壁といった課題も横たわっています。
排気管BIM化の現実:約400㎡に1か月を要する「1か月問題」

さて、ここからはさらに具体的な実例を見ていきましょう。先ほどからコストや人的リソースの話をしてきましたが、実際の現場では、BIM化がいかに時間と手間がかかる作業であるかを痛感させられます。特に、設備BIMにおいて顕著に現れるのが、これからご紹介する「1か月問題」です。
既存ビル設備BIM化の困難性とその実例
既存ビルの機械室やプラント設備。想像してみてください。天井近くから床下まで、所狭しと張り巡らされた配管、ダクト、ケーブルトレイ…。これらの設備は、まさに都市の血管であり神経とも言える重要な要素ですが、その配置は非常に複雑で、密集しているため、目視による正確な測量は極めて困難です。
この複雑さこそが、BIM化に膨大な時間と労力を必要とさせる最大の原因となっています。図面と現況の不一致が常態化しているエリアでもあり、現場での確認作業はまるで宝探しのようなもの。手作業での測量では、誤差が生じやすく、また時間もかかりすぎるため、大規模な設備BIM化は「非現実的」とさえ言われることもあります。
しかし、それでもBIM化を推進しようと努力している企業は存在します。例えば、都内で数百棟の築20~30年のオフィスビルを管理し、フルリノベーションと維持管理を見据えたBIM化を精力的に進めている、あるサブコンの事例です。彼らは将来的な効率化を見据え、既存設備のBIMモデル作成に取り組んでいますが、そこで直面したのが、まさに「1か月問題」でした。
具体的には、約400㎡規模の機械室にある排気管をREBROでBIM化するまでに、およそ1か月もの期間を要しているという実務例があるのです。たった400㎡、たった排気管だけで1か月。これが現実なんです。
従来のBIM化工程とその課題
では、この「1か月問題」を引き起こしている、従来の排気管BIM化工程を具体的に見ていきましょう。
- 高価な大型レーザースキャナーによる現場スキャン:約1日を要するが、搬入や貸出手続きが煩雑で、死角が生じやすい。
まず、高精度な点群データを取得するために、数十万円から数百万円もする大型のレーザースキャナーを現場に持ち込みます。このスキャナーは非常に高性能ですが、重量があり、搬入・設置に手間がかかります。また、貸出手続きなども煩雑で、使いたいときにすぐに使えるわけではありません。現場での取り回しも難しく、配管が入り組んだ場所では、どうしても死角が生じやすいという欠点があります。このスキャン作業だけで、慣れた作業員でも約1日を要します。 - InfiPointsなどのソフトウェアで点群データを3Dモデル化:約2週間かかる。
現場で取得した膨大な点群データは、そのままではBIMモデルにはなりません。InfiPointsなどの専用ソフトウェアを使って、点群の中から個々の要素(配管、ダクト、構造物など)を認識し、3Dモデルへと変換する作業が必要です。この作業は非常に専門性が高く、高度な知識と経験を要します。しかも、自動化されている部分は限られており、大部分は手作業による修正や調整が必要となるため、約2週間もの期間がかかります。 - スキャンデータの確認のため、現場と事務所を往復する作業が発生する。
点群データから3Dモデルを作成する過程で、「この部分は図面と違うが、点群データも不明瞭だ。現場ではどうなっているだろう?」といった疑問が頻繁に発生します。その度に、事務所から現場へ、現場から事務所へと往復する作業が発生します。これには移動時間や交通費といった物理的なコストだけでなく、作業の中断による集中力の低下など、目に見えないコストも含まれます。 - BIMモデル化作業(REBROなど):約2週間を要する。
3Dモデル化されたデータが用意できたとしても、それをBIMソフトウェア(REBROなど)でBIMモデルとして仕上げる作業が待っています。属性情報の付与、干渉チェック、他のモデルとの連携など、BIMの真価を発揮させるための重要な工程です。これもまた、熟練したBIMオペレーターのスキルを要する作業であり、約2週間という時間を要します。
これらすべての工程を合計すると、なんと約1か月。もし途中でスキャンデータの不備が見つかったり、モデル化の精度に問題があったりして、再スキャンや再モデリングが必要になった場合には、さらに工期が延長されるという大きな課題を抱えているのが現状です。これでは、いくらBIMが素晴らしいツールだとわかっていても、現実のプロジェクトに導入するのは躊躇してしまいますよね。
AI自動抽出がBIM化を加速させる突破口となる
この「1か月問題」、そしてそれ以前に立ちはだかっていた様々な「現実の壁」。これらを打ち破る、まさに「突破口」となるのが、LiDARで取得した点群データからAIを活用して必要な要素を自動抽出する技術です。人間が行うには膨大な時間と手間がかかっていた作業を、AIが肩代わりしてくれる。これこそが、BIM化を劇的に加速させる鍵となります。
LiDAR点群からの円筒形状・配管ルート自動認識構想
現在、この「1か月問題」を抜本的に解決するための、画期的な構想が具体的に進められています。それは、LiDARで取得した高密度な点群データから、AIを用いて排気管などの円筒形状を自動的に抽出し、BIMモデルのベースとなる情報へと変換するというものです。
具体的には、AIは以下のような処理を自動で実行することを目指します。
- 円筒形状の検出と配管径の推定: 点群データの中から、パイプやダクトといった円筒形のオブジェクトを認識し、その直径や断面積といった物理的なサイズを自動で推定します。
- 配管ルートの追跡: 複雑に交錯する点群データの中から、特定の配管の始まりから終わりまでのルートを正確に追跡し、その経路を特定します。これにより、人の目で追う必要がなくなります。
- 他の構造物からの分離: 機械室のように、配管だけでなく、機器本体、構造部材、ダクト、ケーブルなどが密集している環境でも、AIは目的の配管だけを他の要素から正確に分離・認識します。
そして最終的には、「直径200mmの排気管がA機器からB機器へ、このルートで接続されている」といった、単なる形状だけでなく、その「意味論的な(セマンティックな)認識と属性付与」の自動化を目指しています。これにより、モデル化された配管に自動で種類やサイズ、接続先といった情報を付与できるため、BIMモデルとしての価値が格段に向上するわけです。点群データから円柱形状(配管・ダクトなど)を自動抽出し、3D CADモデル化をサポートする技術は既に存在し、円周の3分の1程度の点群からでも直管として認識し、バルブ位置の自動認識や規格への置き換えも可能になっています。
点群データからIFC自動出力への未来展望
このAIによる自動抽出技術が実現すれば、BIM化のプロセスは劇的に変わります。まず、LiDARで取得した生点群データから、AIが高速で必要な形状を抽出し、適切な属性情報を付与します。そして、その情報をもとに、BIMで汎用的に利用される国際標準ファイル形式であるIFC(Industry Foundation Classes)ファイルへの自動出力が可能となるのです。
これはつまり、これまでの「1か月問題」を引き起こしていた点群からの3Dモデル化(約2週間)と、その後のBIMモデル化作業(約2週間)という、合わせて1か月近くかかっていた手作業の大部分が、AIによって自動化されることを意味します。これにより、BIMモデリング作業にかかる時間と人的リソースを大幅に削減できるだけでなく、人為的なミスも低減され、結果として工期の大幅な短縮が実現します。
さらに、この技術の進化は、既存建物のデジタルツインを「即時」かつ「高頻度」で更新できる基盤を構築することにも繋がります。建物の改修や設備の更新が行われるたびに、LiDARでスキャンし、AIが自動でBIMモデルを更新。これにより、常に最新の建物のデジタルツインが維持され、維持管理フェーズでの活用(例えば、設備メンテナンスの計画やシミュレーション、将来の改修計画の立案など)にも大きなメリットをもたらします。AIによる点群データの処理は、ノイズ除去、クラス分類、3Dモデルの自動生成を効率化し、業務効率化やコスト削減に貢献します。建設における測量や施工管理、インフラ整備・保全、自動運転などで活用が進んでいる分野です。これはまさに、建設DXのゲームチェンジャーとなる可能性を秘めているのです。
iPhone LiDARがもたらす現場の機動力とコストメリット
AIによる自動抽出がBIM化を加速させる「頭脳」だとするなら、その「手足」となるのが、近年急速に性能が向上しているLiDAR搭載のiPhoneです。高価で大掛かりな専用スキャナーに代わり、ポケットに入るスマホが現場測量の常識を変えようとしています。これは、コストと機動力の両面で、BIM化のハードルを劇的に下げる可能性を秘めています。
大型スキャナーとiPhone LiDARの比較
従来のBIM化プロセスでは、高精度な点群データを取得するために、数十万円から数百万円もする大型のレーザースキャナーが不可欠でした。確かに、これらの専用スキャナーは非常に高い精度を誇りますが、その一方でいくつかのデメリットがありました。
- 搬入・貸出手続きの煩雑さ: 専用機器のため、購入費用だけでなく、リースやレンタルでも費用がかかります。また、現場への搬入には労力がかかり、貸出手続きなども必要で、使いたいときにすぐに持ち出せるわけではありません。
- 現場での取り回しの難しさ: 重量があり、サイズも大きいため、狭い機械室や入り組んだ配管の奥など、手が入らない場所への設置は困難です。
- 死角の発生と再取得の手間: 配置場所の制約から、どうしてもスキャンできない死角が発生しやすくなります。一度取得を逃した箇所の再取得には、再び大掛かりな準備と時間がかかり、プロジェクト全体の遅延に繋がりかねません。
一方、近年、iPhoneやiPad Proシリーズに搭載されたLiDARスキャナーは、これらの課題を一挙に解決する可能性を秘めています。
- 常に携帯可能: ほとんどの人が常に携帯しているiPhoneがLiDARスキャナーを兼ねるため、専用機器を持ち運ぶ手間がありません。思い立った時にすぐにスキャンを開始できます。
- 高い機動性と狭小部スキャン: 軽量で小型なため、狭い場所にも手を伸ばして容易に点群データ取得が可能。天井裏や配管の隙間など、大型スキャナーでは届かなかった箇所のデータも柔軟に取得できます。
- 貸出手続き不要、再スキャン容易: 自社のスマホであれば、煩雑な手続きは一切不要です。もし現場でスキャン漏れが見つかっても、すぐにその場で再スキャンを行えるという「現場の機動力」が最大の強みです。
業務要件を満たす十分な精度と劇的な時間短縮
「でも、スマホのLiDARなんて、専用機器に比べて精度が低いんじゃないの?」という疑問を持つ方もいるかもしれません。確かに、iPhone LiDARの測距範囲は約5mと限られ、専用機器に比べれば精度や解像度は劣ります。しかし、その精度は業務要件によっては十分に活用できるレベルに達しています。例えば、土木分野の小規模測量では±5cm程度の誤差が許容される場合もあり、国土交通省の出来形管理でも活用が認められつつあります。目分量や歩測よりもはるかに正確でスピーディーな計測が可能となるのです。
そして何よりも、「劇的な時間短縮」が実現します。約400㎡規模の排気管スキャンという、先ほどの「1か月問題」の最初のステップにおいて、大型スキャナーが約1日を要していたのに対し、iPhone LiDARであれば、わずか2~3時間で点群データと写真の同時取得が可能となるのです。
これは、BIM化プロセスの最初のステップである「現場スキャン」工程だけでも、大幅な時間短縮とコスト削減が実現することを意味します。高価な機材の購入・レンタル費用、搬入・設置の手間、そして現場での拘束時間…。これら全てが劇的に削減され、「現場で手軽に、必要な時に必要なだけデータを取得する」という、これまでの常識を覆す新しいワークフローが構築できるわけです。現場の機動力が格段に向上し、BIM化の初期段階におけるハードルを一気に下げることができるのです。
未来展望:点群×AI×BIMが描くオフィスリノベーションの革新
LiDAR搭載のiPhoneで手軽に点群データを取得し、それをAIが自動で解析・モデリングし、BIMモデルとして活用する――。この一連の技術連携は、既存オフィスビルのフルリノベーションに、まさに革新をもたらす可能性を秘めています。これは単なる技術導入ではなく、建設業全体の働き方、そして提供する価値そのものを変える大きな一歩となるでしょう。
点群データとBIMのシームレスな連携
これまでの課題は、点群データとBIMモデルの間に存在する大きなギャップでした。点群データは「現実の姿」をデジタル化したものですが、それをBIMモデルとして「活用可能な情報」にするためには、多大な手作業と専門知識が必要でした。しかし、LiDAR(特にiPhone LiDARのような手軽なツール)で取得した点群データをAIが解析・自動モデリングし、BIMソフトウェアで利用可能な形式(IFCなど)として出力するプロセスが確立されれば、このギャップは劇的に埋まります。
このシームレスな連携によって、既存建物の現況把握から、設計、施工、さらには竣工後の維持管理に至るまで、建物のライフサイクル全体でBIM情報を一元的に活用する、真の「デジタルツイン」の実現が加速します。
- 改修・増築計画の精度向上: 現況を正確に反映したBIMモデルがあれば、干渉チェックや資材の数量算出が格段に容易になり、計画段階での手戻りを大幅に削減できます。
- 施工ミスの防止と工程管理の精度向上: BIMモデルと現場のリアルタイムな点群データを比較することで、施工段階での不整合を早期に発見し、手戻りや手直しを防ぎます。また、工事の進捗をBIMモデル上で視覚的に管理できるようになり、工程管理の精度も向上します。
- 維持管理フェーズでの活用: 設備更新やメンテナンス計画の立案、エネルギー消費シミュレーションなど、建物の運用・管理フェーズにおいても、常に最新のデジタルツインが参照できるようになることで、効率的かつコストを抑えた維持管理が可能になります。
これにより、既存のオフィスビルが持つ可能性を最大限に引き出し、より魅力的な空間へと生まれ変わらせることができるようになります。
コストと工期、人的負担の抜本的解決へ
点群×AI×BIMの自動化は、これまで既存建物のBIM化を阻んできた「コスト」「工期」「人的負担」といった、根深い課題を抜本的に解決する可能性を秘めています。
- 初期投資のハードル低減: 高価な専用スキャナーやソフトウェアライセンス、熟練オペレーターの確保・育成にかかっていた初期投資のハードルが、iPhone LiDARの活用やAIによる自動化によって大幅に下がります。これにより、これまでBIM導入に踏み切れなかった中堅企業やサブコンでも、現実的な選択肢としてBIM化を検討できるようになります。
- ROIの短期的な向上: 手軽なツールとAIの組み合わせにより、BIMモデル作成にかかる時間とコストが劇的に削減されれば、BIM化のROIが短期的に向上します。これまでの「長期的に見ればメリットがあるが、短期的なキャッシュアウトが痛い」という経営判断の構造を、「すぐにでも効果が見込める投資」へと変革する力を持ちます。
- 人材不足と生産性低下の解決: AIが熟練者の手作業を代替することで、BIMモデリングにおける人材不足の問題を緩和し、既存人材の生産性を飛躍的に向上させます。これにより、建設業界全体が直面する高齢化や担い手不足といった構造的課題の解決にも貢献し、より魅力的な産業へと変革していく道筋が見えてきます。
私たちが目指すのは、BIMを特別なものから「当たり前のツール」へと昇華させることです。現場の誰もが手軽にBIMを活用し、設計、施工、維持管理の各フェーズでデジタル情報を駆使して業務効率を最大化する。点群×AI×BIMの連携は、その未来を現実のものとするための、最も現実的で強力な突破口となるでしょう。
既存オフィスビルのフルリノベーションという大きなポテンシャルを秘めた市場において、この新しいBIMワークフローは、これまでの常識を打ち破り、新たな価値創造を可能にします。ぜひ、この技術革新の波に乗り、貴社のDXを加速させていきませんか?