わずか数ミリのズレが、建物全体の品質を脅かす現実をご存じでしょうか。紙の図面とベテランの勘に頼る時代は終わりを迎えています。BIMとICT技術を活用した通り芯管理のDX化が、施工トラブルを未然に防ぎ、省人化と生産性向上を同時に実現する鍵となります。

はじめに
建設現場では、すべての構造物の位置を決める基準として通り芯が使われています。設計から施工、品質管理まで一貫して活用される重要な要素です。
しかし従来のやり方では、図面と現場の情報共有に時間がかかってしまいます。作業者の経験差によって施工品質にばらつきが出る課題もありました。
国土交通省が推進するアイコンストラクション2.0では、2040年度までに建設現場の省人化3割、生産性1.5倍向上を目標に掲げています。BIMやICT技術を使った通り芯管理のDX化が、この目標達成の鍵を握っているのです。
本記事では、通り芯管理の基礎知識から、DX化による効率改善の具体的な方法まで解説します。実務に即した情報をお届けしますので、ぜひ最後までご覧ください。
通り芯とは?建設現場での基本知識
通り芯は建物の骨格を決める基準線であり、すべての構造物や設備の位置を正確に定めるための座標系です。設計図面では一点鎖線で表記され、X方向とY方向に番号やアルファベットが付けられています。
現場では墨出し作業によって床や躯体に反映され、躯体工事から内装、設備工事まで全工種が同じ基準で寸法を取り合います。通り芯の理解と正確な管理が、建設工事の品質と効率を左右する重要な要素となっているのです。

通り芯とは何かを図面ベースで解説します
一点鎖線で表記されるグリッドシステムで、柱や壁の位置を座標的に特定できる基準線
通り芯は建築図面における最も基本的な基準線で、建物全体の位置関係を示すグリッドシステムです。平面図では一点鎖線で表記され、通常はX方向に数字、Y方向にアルファベットや数字が付けられます。
たとえばX1、X2、X3とY1、Y2、Y3のように配置され、その交点が柱や壁の基準位置となります。通り芯は柱の中心線である柱芯と一致することが多く、一般的に5メートルから7メートル間隔で配置されるでしょう。
図面上で通り芯符号を確認すれば、X3通りでY4通りの柱といった具合に、建物内の任意の位置を座標的に特定できます。設計者、施工管理者、作業員が共通の言語で位置を共有できるのです。
通り芯から壁芯や設備機器までの寸法を指定することで、複雑な建築物でも正確な施工が可能になります。
設計・施工で通り芯が重要な理由とは
意匠図、構造図、設備図すべてに登場し、工程全体の共通基準として機能する
通り芯は設計から施工、維持管理まで一貫して使われる共通基準であり、意匠図、構造図、設備図のすべてに登場します。設計段階では、通り芯を基準に柱や梁の配置を決定し、構造計算も通り芯の交点を基準に行われるのです。
施工段階では、何もない敷地に最初に設定される基準線として、測量や墨出し作業の起点となります。通り芯が正確でなければ柱の位置を特定できず、通り芯から500ミリメートルの位置といった明確な指示もできません。
また、異なる縮尺の図面や部分拡大図でも、同じ通り芯番号で位置を照合できるため、図面間の整合性確保に不可欠です。設計変更が発生した場合も、通り芯を起点に再計算すれば全体への影響を正確に把握できます。
協力会社や職人との情報共有も、通り芯を使えば誤解なく伝達できるでしょう。
通り芯のズレが引き起こす施工トラブル
柱の傾き最大21ミリや接合部のボルト穴ズレなど、連鎖的な施工不良を招く
通り芯のズレは建物全体の寸法や柱の位置に連鎖的な影響を及ぼし、深刻な施工トラブルを引き起こします。2023年に発覚した大成建設の施工不良では、鉄骨柱の傾きが最大21ミリメートルに達し、品質管理の計測値改ざんまで発覚しました。
通り芯の設定ミスや累積誤差により、鉄骨の接合部でボルト穴がずれ、仮ボルトが通らない事態も発生しています。また、通り芯と壁芯の混同により、壁や間仕切りの位置が設計と異なって施工されるケースも少なくありません。
やり直しによる工期遅延とコスト増大を招いてしまうのです。墨出し時の機器校正不良や、端部からの追い寸による累積誤差の増幅も頻発するトラブル要因です。
通り芯のズレは構造安全性の低下だけでなく、内装や設備工事での寸法調整が困難になります。最悪の場合は建物の解体や大規模な補修工事が必要となるでしょう。
従来の通り芯管理が抱える3つの課題

従来の通り芯管理は紙の図面と人の経験に依存しており、デジタル化が進む建設業界において大きな課題となっています。2024年4月に施行された建設業の時間外労働規制により、効率的な情報共有と省人化がこれまで以上に求められているのです。
アナログな通り芯管理では限界が見えています。図面管理の煩雑さ、経験依存による品質差、工程間の情報分断という3つの課題が、建設現場の生産性向上を阻む要因となっています。
図面管理だけでは通り芯は共有できません
版管理の混乱、転記ミス、手計算による誤差が情報共有を阻害している
紙の図面やPDFによる通り芯管理では、リアルタイムの情報共有が困難です。設計変更が発生すると図面の差し替えが必要になり、最新版がどれか分からなくなる版管理の問題が頻発します。
複数の協力会社が関わる現場では、各社が異なるバージョンの図面を参照し、通り芯の位置に齟齬が生じるリスクがあるのです。また、図面上の通り芯は二次元表現のため、複雑な形状の建物や斜め方向の通り芯では、現場作業員が正確に理解することが難しくなります。
測量データと図面の照合も手作業で行うため、転記ミスや読み取りミスが発生しやすく、墨出し後の確認作業に多くの時間を要してしまいます。
さらに、通り芯から各部材までの寸法計算も手計算やスケール測定に頼るため、計算ミスのリスクが常に付きまとうでしょう。
経験依存の通り芯判断が招く品質差
55歳以上が36.6%の高齢化で、属人的な精度確認が品質ばらつきを生む
通り芯の設定や墨出しの精度は、作業者の経験とスキルに大きく左右されます。ベテラン技術者は長年の経験から通り芯の誤差を直感的に見抜けますが、若手や経験の浅い作業員では同じレベルの判断ができません。
国土交通省の2024年調査によれば、建設技能者全体のうち55歳以上が36.6パーセント、29歳以下は11.6パーセントと高齢化が進んでいます。技能継承の難しさが浮き彫りになっているのです。
通り芯の精度確認方法や許容誤差の判断基準が属人化しており、同じ現場でも担当者によって品質にばらつきが生じます。また、外国人技能実習生の増加により、言語や文化的障壁から通り芯の重要性や管理方法を正確に理解してもらうことが困難になっています。
デジタル技術に不慣れな熟練工も多く、新しいツールの習得に時間がかかることも課題です。
設計・施工・測量で情報が分断される理由
各工程で異なる形式のデータを使用し、施工BIM継続活用率はわずか14%
通り芯情報は設計、測量、施工の各段階で異なる形式で扱われ、工程間でのデータ連携が困難です。設計段階ではCADソフトで作成された通り芯データが、測量段階では測量機器用の座標データに変換されます。
施工段階では墨出し用の手書きメモや計算シートとして扱われるのです。日本建設業連合会の報告によると、施工BIMの活用率は全体で39パーセントにとどまり、設計施工分離型案件でのBIMモデル継続活用率はわずか14パーセントです。
このため構造的に施工フェーズへのデータ継承が途切れやすい実態があります。各工程で独自のツールと形式を使用するため、通り芯の変更があっても関係者全員への即時共有ができません。
情報の伝達遅れや認識のズレが発生してしまいます。また、各工程で蓄積されたデータも統合されず、維持管理段階で活用できない問題もあるでしょう。
建設DXで通り芯管理はどう変わる?
建設DXの推進により、通り芯管理はアナログからデジタルへと大きく転換しています。BIMによる三次元モデル化、ICT施工機械との連携、クラウド型の情報一元管理により、通り芯データをリアルタイムで共有できるのです。
設計から施工、維持管理まで一貫して活用できる環境が整いつつあります。国土交通省は2023年に小規模を除くすべての公共事業へのBIM活用を原則適用とし、2027年度以降は三次元モデルを契約図書とする方針を示しており、民間工事でもDX化の流れが加速しているでしょう。
BIMで通り芯をデジタル化する方法
三次元グリッドで全図面に自動反映され、測量機器やICT建機へ直接転送可能
BIMソフトウェアでは通り芯をグリッドとして三次元空間に配置し、すべての構造要素の基準とします。オートデスクのレビットやアーキキャドなどの主要BIMソフトでは、通り芯を設定するとそれが平面図、立面図、断面図のすべてに自動反映されるのです。
図面間の整合性が保証されます。通り芯の変更も一箇所で行えば全図面に即座に反映されるため、版管理の問題が解消するでしょう。
BIMモデル内の通り芯は座標データとして保持されるため、測量機器やICT建機に直接データ転送が可能です。また、BIMビューワーを使えば、スマートフォンやタブレットで現場から三次元モデルと通り芯を確認でき、紙の図面を持ち歩く必要がなくなります。
シビル3D 2025では日本の建設業界標準のデータ交換形式に対応し、測量や設計データを効率的に共有できます。通り芯からの寸法も自動計算されるため、計算ミスのリスクが大幅に低減するのです。
ICT施工と通り芯データ連携の仕組み
BIM座標を直接読み込み、自動制御建機が経験に依存しない均一施工を実現
ICT建設機械は、BIMモデルから抽出した通り芯データを直接読み込み、自動制御による高精度な施工を実現します。コマツのスマートコンストラクションや鹿島建設のエーフォーシーセルなど、多台数の建機を最適計画に基づき運用する生産システムが実用化されているのです。
測量段階で取得した三次元点群データとBIMモデルの通り芯を重ね合わせることで、設計と現況の差異を視覚的に確認できます。GNSSやトータルステーションと連携したICT建機は、通り芯座標をリアルタイムで参照しながら掘削や盛土を行うでしょう。
オペレーターの経験に依存しない均一な施工品質を実現します。また、自動墨出し機器は通り芯データを読み込み、レーザーで床や壁に基準線を投影するため、従来の手作業による墨出しと比べて作業時間を大幅に短縮できるのです。
施工中の通り芯データは自動記録され、品質管理の証跡として活用されます。
通り芯情報を一元管理するメリット
クラウド基盤で最新情報を全員が共有し、遠隔からの進捗確認も可能になる
クラウド型のBIMプラットフォームを使えば、通り芯情報を含むすべてのプロジェクトデータを一元管理できます。オートデスク コンストラクション クラウドなどのツールでは、設計者、施工管理者、協力会社、発注者が同じ基盤上で最新の通り芯情報にアクセスできるのです。
情報の非対称性が解消されます。通り芯の変更があれば関係者全員に自動通知され、常に最新情報で作業できる環境が整うでしょう。
また、通り芯を基準とした進捗管理も可能になり、BIMモデルと点群データを重ね合わせることで、計画と実績の差異をリアルタイムで可視化できます。村本建設の事例では、ユニティを活用してパソコンだけでなくスマートフォンやタブレット、VRで多人数や多拠点での設計と点群データレビュー環境を実現しました。
現場に出向かずに遠隔から設計データと施工状況を視覚的に比較できるようになったのです。維持管理段階でも通り芯データが保存されているため、将来の改修や増築時に活用できます。
通り芯DXを現場で活かす実践方法
通り芯DXを成功させるには、技術導入だけでなく、現場の実情に合わせた段階的なアプローチと運用ルールの整備が重要です。大手ゼネコンだけでなく、中小規模の建設会社でも導入可能な実践的な方法と、現場で直面する課題への対処法を理解することが求められます。
投資対効果の高いDX化を実現できるでしょう。ここでは具体的な導入手順と注意点、将来的な発展の可能性について解説します。
設計から施工まで通り芯DXを進める手順
パイロットプロジェクトで試験運用し、現場KPI管理で効果を定量測定する
通り芯DXの導入は、小規模なパイロットプロジェクトから始めることが推奨されます。まず設計段階でBIMソフトウェアを導入し、通り芯をグリッドとして三次元モデルに組み込むのです。
次に測量段階で、トータルステーションやGNSS測量機と連携し、通り芯座標データを現場に反映します。施工段階では、タブレットやスマートフォンで通り芯を含むBIMモデルを現場確認できる環境を整備しましょう。
重要なのは、いきなり全工程をデジタル化するのではなく、まず躯体工事など限定された工種で試験運用を行うことです。現場作業員の習熟度を高めながら段階的に適用範囲を広げていきます。
また、標準プロセスを整備し、出来高、稼働率、段取り替え時間、安全指標などの現場KPIに直結する管理画面を運用することで、DX化の効果を定量的に測定できるのです。社内での成功事例を蓄積し、ノウハウを横展開することが重要でしょう。
中小現場でもできるDX導入の注意点
無料ツールと補助金活用で初期投資を抑え、段階的なスキル移転を図る
中小規模の建設会社でも、無理なく導入できるDX戦略が存在します。まずは高額なBIMソフトウェアではなく、無料のBIMビューワーやクラウドサービスから始めることで初期投資を抑えられるのです。
国土交通省の建築GXとDX推進事業では、BIM関連費用の補助率が2分の1となっており、設計費最大3500万円、建設工事費5500万円まで補助されます。これらの補助金を活用することで導入コストを削減できるでしょう。
人材育成については、外部の専門企業やBIMマネージャーとの協力体制を構築し、段階的にスキルを移転していく方法が有効です。また、すべての作業員がデジタルツールを使いこなす必要はなく、まずは施工管理者や若手社員から習熟させます。
彼らが現場作業員をサポートする体制を作ることが現実的でしょう。重要なのは、省人化や安全、工期短縮のうち、どれを主目的とするかを明文化し、投資対効果を測定できる指標を設定することです。
通り芯データ活用がもたらす将来像
AIによる最適配置提案と完全自律型建機の協調作業が現実のものになる
通り芯データの活用は、建設業界全体のサプライチェーン変革につながる可能性を秘めています。BIMを起点とした測量、設計、施工、検査、維持管理の連携により、作りながらデータが貯まる設計が実現するのです。
将来的には、AIが通り芯データと過去の施工実績を分析し、最適な通り芯配置や施工手順を提案するようになるでしょう。また、デジタルツインとして建物の三次元モデルと通り芯データが維持管理段階でも活用され、改修工事や設備更新時に設計データを一から作り直す必要がなくなります。
自動化施工技術の進展により、通り芯データを基準とした完全自律型の建設機械が複数台協調して作業する時代も近づいているのです。鹿島建設のエーフォーシーセルは造成工事への本格適用が進んでおり、多台数の自動化建機を最適計画に基づき運用する生産システムが実用段階に入っています。
通り芯データを中心としたデジタル基盤の整備が、2040年度までの省人化3割、生産性1.5倍向上という目標達成の鍵となるでしょう。
まとめ
通り芯は建設現場における最も基本的な基準線でありながら、その管理方法は長年アナログに依存してきました。しかしBIMやICT技術の発展により、通り芯をデジタル化し、設計から施工、維持管理まで一貫して活用できる環境が整いつつあります。
通り芯DXの推進は、図面管理の効率化、経験差による品質ばらつきの解消、工程間の情報分断解決という3つの課題を同時に解決するのです。中小規模の建設会社でも、補助金の活用や段階的導入により、無理なくDX化を進めることができます。
国土交通省のアイコンストラクション2.0が掲げる2040年度までの省人化3割、生産性1.5倍向上という目標達成には、通り芯管理のDX化が不可欠です。今後ますます重要性が高まっていくでしょう。
FAQ
通り芯のズレはどのくらいまで許容されるのですか?
建物の用途や規模によりますが、一般的には数ミリ以内が基準です。
鉄骨造では3ミリ以内、鉄筋コンクリート造では5ミリ以内が標準的な許容誤差とされています。ただし、高層ビルや大規模施設ではより厳しい基準が適用されることもあります。通り芯のズレが許容範囲を超えると、構造安全性や施工品質に影響を及ぼすため、墨出し段階での正確な測量と確認作業が重要です。
中小規模の建設会社でもBIMを導入できますか?
無料ツールと補助金を活用すれば、十分に導入可能です。
国土交通省の建築GXとDX推進事業では、BIM関連費用の補助率が2分の1となっており、設計費最大3500万円、建設工事費5500万円まで補助されます。また、無料のBIMビューワーやクラウドサービスから始めることで初期投資を抑えられます。まずは小規模なパイロットプロジェクトで試験運用し、段階的に適用範囲を広げていく方法が現実的でしょう。
通り芯管理のDX化で最も効果が出やすい工程はどこですか?
躯体工事から始めるのが最も効果的です。
躯体工事は通り芯が最も重要な役割を果たす工程であり、柱や梁の配置精度が建物全体の品質を左右します。BIMで通り芯をデジタル化し、ICT建機と連携することで、墨出し作業の時間短縮と精度向上を同時に実現できます。成功事例を蓄積してから内装や設備工事へ展開することで、現場作業員の理解と習熟度を高めながら導入を進められます。
紙の図面とBIMを併用する過渡期の注意点は何ですか?
どちらを正とするか明確にし、版管理ルールを徹底することです。
紙の図面とBIMモデルが混在する期間は、情報の齟齬が発生しやすくなります。BIMモデルを最新版として位置づけ、紙の図面はあくまで参考資料とするなど、優先順位を明確にしましょう。また、変更があった場合の更新手順と承認フローを定め、関係者全員に周知徹底することで、情報の混乱を防げます。
外国人技能実習生にも通り芯DXを理解してもらえますか?
視覚的なBIMモデルは言語の壁を越えて理解しやすいツールです。
三次元のBIMモデルは、言葉による説明が不要で視覚的に理解できるため、外国人技能実習生にとって有効なコミュニケーション手段となります。スマートフォンやタブレットで通り芯や構造物の位置を確認できるため、言語や文化的障壁を軽減できます。ただし、基本的な操作方法については、多言語対応のマニュアルや動画教材を用意することが望ましいでしょう。
通り芯データは何年くらい保存すべきですか?
建物の維持管理や将来の改修に備えて、建物の寿命と同期間保存することが理想です。
通り芯データは、改修工事や設備更新時に設計データを一から作り直す手間を省けるため、長期保存が推奨されます。一般的な建物の法定耐用年数は30年から50年ですが、デジタルツインとして活用する場合は建物が存続する限り保存することで、維持管理コストの削減につながります。クラウドストレージを活用すれば、長期保存のコストも抑えられるでしょう。
通り芯DXの投資対効果はどのくらいで回収できますか?
規模にもよりますが、3年から5年程度で初期投資を回収できるケースが多いです。
墨出し作業の時間短縮、施工ミスの削減、手戻り工事の減少により、プロジェクトごとに工期を5パーセントから10パーセント短縮できれば、人件費と工期遅延コストの削減効果が見込めます。また、品質向上による信頼性向上が新規受注につながる副次的効果もあります。現場KPIを設定して効果を定量測定し、社内での成功事例を蓄積することで、投資判断の精度を高められるでしょう。
専門用語解説
通り芯:建物の柱や壁の位置を決める基準線のことです。設計図面では一点鎖線で表記され、X方向とY方向に番号やアルファベットが付けられます。すべての構造物や設備の位置を正確に定めるための座標系として機能します。
BIM:ビルディング インフォメーション モデリングの略称で、建物の三次元モデルを作成し、設計から施工、維持管理まで一貫して活用する手法です。通り芯をグリッドとして三次元空間に配置し、全図面に自動反映させることができます。
ICT施工:情報通信技術を活用した施工方法のことです。BIMモデルから抽出した通り芯データを建設機械が直接読み込み、自動制御による高精度な施工を実現します。オペレーターの経験に依存しない均一な施工品質が特徴です。
墨出し:建設現場で図面上の通り芯や寸法を床や壁に実際に印をつける作業のことです。従来は墨壺と墨糸を使って手作業で行われていましたが、現在では自動墨出し機器がレーザーで基準線を投影する方法が普及しています。
柱芯:柱の中心線のことで、通り芯と一致することが多い基準線です。構造計算や図面作成の基準となり、意匠図と構造図で柱芯を基準に各寸法を計測してお互いの図面情報を伝達します。
i-Construction 2.0:国土交通省が2024年4月に策定した建設現場のオートメーション化推進策です。2040年度までに省人化3割、生産性1.5倍向上を目標とし、施工、データ連携、施工管理の3つのオートメーション化を推進します。
点群データ:三次元レーザースキャナーなどで計測した物体や地形の表面形状を、無数の点の集合として記録したデータです。BIMモデルの通り芯と重ね合わせることで、設計と現況の差異を視覚的に確認できます。
執筆者プロフィール
本記事は、製造業と建設業のDX推進に20年以上携わってきた小甲健が執筆しました。
AXConstDX株式会社のCEOとして、現場課題の解決に特化したコンサルティングを提供しています。CADシステムのゼロからの構築や、赤字案件率0.5パーセント未満という実績に裏打ちされた実行力で、提案受注率83パーセントを達成してきました。
建設業界における通り芯管理のような基本的でありながら重要な業務プロセスを、生成AIとDX技術で革新することに強みを持ちます。ハーバードビジネスレビューへの寄稿やシリコンバレー視察を通じて得たグローバル視点を、日本の建設現場に適用した実践的な支援を行っています。
主な実績と専門領域
- 製造業と建設業向けソフトウェア開発20年以上
- CADシステム構築、BIM導入支援、ICT施工コンサルティング
- 赤字案件率0.5パーセント未満、提案受注率83パーセント
- 生成AI活用による業務改善とコンテンツ制作支援
- ハーバードビジネスレビュー寄稿2回、シリコンバレー視察5回以上
建設DXの推進において、技術導入だけでなく現場の実情に合わせた段階的なアプローチと運用設計が成功の鍵であると考えています。本記事で紹介した通り芯管理のDX化も、そうした実践的な視点から解説しています。