高速道路5,000km・鉄道8路線——ベトナム建設ラッシュで日本企業に何が起きるか
「ベトナムは成長している、でも自社がどう動けばいいか見えない」——そんな焦りを感じている日本企業は、いま確実に機会を逃しつつあります。高速道路5,000km化、鉄道8路線、再エネ転換という国家規模の建設投資が重なるいま、正しい参入戦略を描ける企業だけが、アジアの次の10年を制します。
はじめに
ベトナムの建設市場が、いま急加速しています。 2026年には実質7.9%の成長が見込まれ、2030年までの年平均成長率も6.5%と予測されています。
その背景には、高速道路5,000km化、都市鉄道の整備、再エネ転換という計画が重なっています。 海外直接投資の拡大と合わさり、国家規模の建設需要が生まれています。
「成長市場だとは知っているが、どこにどう参入すればよいかわからない」という日本企業は少なくありません。
この記事では、市場の成長構造を数字で整理し、DXやGX技術を活かした参入戦略を具体的に示します。
ベトナム建設市場はなぜ今、急成長しているのか

ベトナムの建設市場は、アジアの中でも特に注目度の高い成長市場として、存在感を急速に高めています。
海外直接投資の継続的な拡大が、建設需要を力強く押し上げています。 政府による積極的なインフラ投資も、その勢いを後押ししています。
製造業の集積地としての地位を固めつつあるベトナムでは、この成長の流れが今後も続くと見られています。
この章では、2026年の最新成長見通しと、その背景にある投資の構造を整理します。
2026年に7.9%成長——ベトナム建設市場が伸び続ける理由
2026年に実質7.9%増。FDI流入と政府投資が重なり、構造的な成長が続いている。
ベトナム建設市場は、2026年の建設業生産高が実質7.9%増となる見通しです。 これはResearch and Marketsの最新レポートが示した数字です。 単年の特需ではなく、構造的な成長を反映しています。
成長を支えるのは、海外直接投資の継続的な流入です。 政府主導による交通やエネルギーインフラへの大規模投資も、その要因です。 ベトナムは近年、製造業の集積地としての地位を着実に固めています。 工業団地や物流施設の新設需要が、途切れなく発生しています。
都市化の進展も住宅や商業施設の需要を後押ししています。 複数の需要源が重なり合い、市場全体を底上げしています。
こうした構造的な背景が、景気変動に左右されにくい安定した成長基盤を形成しています。 アジア全域で製造拠点の再配置が加速するなか、ベトナムはその主要な受け皿として注目され続けています。 成長の勢いは今後も続くと見られています。
FDI384億ドル+国家予算1,245億ドルが建設需要を底上げ
FDI384億ドルと国家予算1,245億ドルが民間と公共の両輪で建設需要を押し上げる。
2025年の登録海外直接投資は前年比0.5%増で、約384億2千万ドルに達しました。 ベトナムへの資本流入は、引き続き活発な状況です。
製造業やハイテク産業向けの工場建設、物流インフラへの投資が特に顕著です。 北部や中部、南部の各経済圏で大型案件が相次いでいます。
2026年度の国家予算では、総支出が約1,245億ドル規模に上ります。 交通や住宅、エネルギーの三分野への重点投資が予定されています。 政府は公共投資の執行率向上を重要な政策課題と位置づけており、インフラ整備の加速が見込まれます。
民間投資と政府系の公共投資が補完し合っています。 建設需要が着実に押し上げられる環境が、整いつつあります。 この二重構造の投資拡大こそが、ベトナム建設市場の底堅さを支える根本的な要因です。
今後も両輪の勢いが持続する可能性は高く、中長期的に見れば市場の先行きは一段と明るいといえるでしょう。
2030年までに何が建設される?3つのインフラ拡張計画
2027年から2030年にかけての年平均成長率は、6.5%と予測されています。 ベトナムは中期にわたって建設ラッシュが続く見通しです。
その中心となるのが、高速道路や都市鉄道やエネルギーインフラという3つの大型国家計画です。 いずれも政府が最優先で推進するプロジェクトであり、建設市場全体への波及効果は極めて大きいものがあります。
この章では、3つの計画それぞれの規模や背景や建設需要への影響を具体的に解説します。
高速道路を1,900kmから5,000kmへ——物流革命が始まる
2030年までに高速道路を2.6倍超に拡大。南北縦断ルートが物流と建設需要を変える。
交通インフラ分野で最も注目すべき計画が、高速道路網の大規模な拡充です。
ベトナム運輸省は2030年までに、高速道路網を5,000kmへと拡大する目標を掲げています。 2023年時点のわずか1,900kmから、倍増以上の規模になります。 この計画が完成すれば、南北縦断ルートが整備されます。 製造拠点と港湾や消費地を結ぶ物流の効率化が、飛躍的に進みます。
土木や舗装、橋梁設計、トンネル工事など多岐にわたる建設需要が発生します。 今後数年にわたって、継続的に需要が続く見込みです。 政府は官民連携による民間資本の活用も積極的に進めており、外資企業にとっても参入機会が広がっています。
インフラ整備の加速は物流コストの低減に直結し、ベトナム全体の経済競争力を高めます。 周辺国に対する優位の確立にも寄与するため、国内外の投資家から高い期待が集まっています。
ホーチミン8路線・247億ドル——都市鉄道整備が本格始動
ホーチミンとハノイで都市鉄道が急拡大。駅周辺開発も含め日系企業の出番が多い。
交通インフラ整備のもう一つの大きな柱が、都市鉄道計画です。
ホーチミン市では8路線、総額約247億ドルの投資が見込まれています。 都市交通インフラの整備が、いよいよ本格化する段階に入っています。 ハノイ市でも複数の地下鉄路線が計画の建設中です。 両大都市圏での公共交通網の拡充が、急ピッチで進んでいます。
都市鉄道の整備は車両基地や駅舎、高架橋、トンネルなど多様な工種を伴います。 そのため、建設市場への波及効果は極めて大きいものです。 さらに駅周辺の再開発や商業施設の建設という二次的な需要も誘発し、都市開発全体の起爆剤として機能します。
日本の政府開発援助や技術協力が、これまで深く関わってきた分野でもあります。 日系企業が技術的な優位性を発揮しやすい領域です。 施工管理や品質保証での日本式ノウハウへの期待は高いものがあります。 現地の人材育成を含む、包括的な関与が求められています。
再エネ・水素戦略がGX建設投資を押し上げる理由

再エネ比率28〜36%と水素2,000万トン目標が、長期にわたる建設投資を牽引する。
エネルギー分野では、2021〜2030年の電力開発マスタープランが定められています。 再生可能エネルギーの割合を、2030年までに28〜36%に引き上げる方針です。
太陽光や風力発電設備の建設、送電網の増強、蓄電システムの整備が進んでいます。 これらエネルギーインフラへの投資が、建設需要を底上げしています。
2050年までに年間2,000万トンの水素生産を目指す産業戦略もあります。 製造や輸送、貯蔵施設の建設という形で、新たな市場領域を切り開く見込みです。
エネルギー転換は長期にわたる投資の流れを形成します。 建設市場の持続的な拡大を支える、構造的な成長要因となります。 省エネ技術やカーボンニュートラルな施工への対応力が求められる場面も増えています。 脱炭素分野の技術を持つ企業にとって、新たなビジネス機会が広がっています。DXとGXを経営戦略に統合する「実装型GX」の視点からも、ベトナムのエネルギー転換は日本企業が強みを発揮できる重要な局面です。
国際的な脱炭素化の要請という観点からも、ベトナムのエネルギーインフラ整備は加速し続けるでしょう。
日本企業がベトナム建設市場に参入する3つの戦略
ベトナム建設市場の高い成長性は、日本企業が建設DXやGX技術を現地で展開する絶好の機会を提供しています。
ただし、成功するためには市場構造の正確な理解と、現地の実情に即した参入戦略の構築が欠かせません。 闇雲に進出するのではなく、自社の強みと市場ニーズの交点を明確にすることが重要です。
この章では、3つの成長軸に基づいた参入機会を整理します。 日本企業が今すぐ取るべき具体的な展開戦略も、詳しく解説します。
FDI・インフラ・住宅——3つの成長軸で参入機会を見極める
FDI需要・公共インフラ・住宅の3軸が同時拡大。分散した需要が市場の安定性を高める。
ベトナム建設業界は3つの成長軸で支えられています。 海外直接投資による需要、公共インフラの整備、住宅供給の拡大が重なっています。 2030年に向けた持続的な拡大基調を、力強く形成しています。
海外直接投資は商業や工業施設の建設需要を生み出します。 公共インフラは高速道路や鉄道、エネルギー施設の整備を牽引します。 住宅供給は政府主導の開発政策によって下支えされており、3つの軸が同時に拡大しています。
この構造は分散した需要基盤を形成しています。 特定の分野に依存しないため、市場としての安定性と成長性を兼ね備えています。
日本企業が参入を検討する際は、3軸のどこに自社の強みを当てはめるかの分析が出発点です。 単独で進出するよりも、現地パートナーとの合弁や提携の活用が有効です。 規制対応や顧客開拓のスピードを高めることができます。
現地の商慣行や調達ネットワークを熟知したパートナーの存在は重要です。 初期コストを大幅に圧縮し、事業リスクを低減する上での重要な鍵となります。実際に建設・製造業の大規模DX案件を支援してきた経験からも、参入初期の「現地連携の質」が成否を分けることは明らかです。
建設DX・GXで差別化——日本企業が勝てる現地展開の進め方
BIMやDXツール、GX技術が日本の強み。現地パートナーと段階的に展開することが鍵だ。
日本企業にとって、建設DXやGX技術を活かした現地展開は大きなチャンスです。製造・建設業界でのDX推進を長年手がけてきた知見からも、こうした技術需要が新興市場で急速に高まる傾向は一貫して見られます。
BIMやCIMなど建設情報モデリング技術、施工管理のデジタル化ツールは日本の強みです。 再生可能エネルギー関連のインフラ技術においても、ベトナム市場への参入余地は十分あります。
ベトナムの建設業界はデジタル化の初期段階にあり、日本の技術やノウハウへの需要は着実に高まっています。 施工精度の向上、工期の短縮、安全管理の強化を実現するデジタルツールは注目を集めています。 現地のゼネコンや政府機関から、強い関心が寄せられています。
脱炭素分野では、省エネ建材や省エネビルの設計、カーボンニュートラルな施工技術の提案が有効です。 国際基準への適合を求める外資系の開発事業者との協業にも直結します。
技術の移転や人材の育成を通じた長期的な関係構築が、持続的なビジネス展開の礎となります。 現地のニーズを深く理解した上で、自社技術を適切に展開することが大切です。 官民双方との信頼関係を丁寧に積み上げながら、段階的に事業規模を拡大していく姿勢が成功への近道です。
まとめ
ベトナム建設市場は2026年に7.9%の成長が見込まれています。 2027〜2030年の年平均も6.5%と予測される、アジア屈指の高成長市場です。
その成長を牽引するのは、海外直接投資、政府インフラ投資、エネルギー転換という三つの力です。 高速道路5,000km化、ホーチミン都市鉄道8路線、再エネ比率の引き上げという計画が並んでいます。 これらの国家プロジェクトが、建設需要を長期にわたって下支えします。
日本企業にとっては、BIMやCIM、施工管理のデジタル化、GX技術といった強みを活かせる絶好の市場です。 参入にあたっては、海外直接投資需要、公共インフラ、住宅供給という3軸を踏まえることが重要です。 現地パートナーとの連携を軸に段階的に展開することが、成功の鍵となります。
2030年に向けた市場拡大の波は、今まさに始まっています。
FAQ
ベトナム建設市場はなぜ今が参入の好機なのですか? 2026年に7.9%成長、2030年まで年平均6.5%という高い成長率が続く見通しだからです。 政府主導の高速道路拡張、都市鉄道整備、再生可能エネルギーへの転換という3つの大型計画が同時進行しており、建設需要が長期にわたって底堅く続きます。市場が成熟してからでは参入コストも競争も大きくなります。動き始めるなら、需要が立ち上がっているいまが最適なタイミングです。
FDIとは何ですか?ベトナムの建設市場にどう関係しますか? FDIとは「海外直接投資」のことで、外国企業がベトナムに工場や施設を建てるための資金流入を指します。 2025年には約384億2千万ドルものFDIがベトナムに登録されており、工業団地や物流施設の新設需要を直接生み出しています。FDIが増えるほど建設案件も増えるため、ベトナム建設市場の成長を読む上での重要な指標です。日本企業が参入先を選ぶ際にも、FDIが集まる経済圏を狙うことが有効な戦略となります。
日本企業がベトナム建設市場で活かせる強みは何ですか? BIMやCIMといった建設情報モデリング技術、施工管理のデジタル化、省エネビルや脱炭素施工の技術が日本の強みです。 ベトナムの建設業界はまだデジタル化の初期段階にあり、精度の高い施工管理や品質保証の仕組みへの需要が高まっています。GX分野でも省エネ建材やカーボンニュートラルな施工技術への関心が外資系事業者を中心に広がっており、日本企業の技術が求められる場面は多くあります。
ベトナム建設市場への参入にあたり、現地パートナーは必要ですか? 単独進出よりも現地パートナーとの合弁や提携が、参入リスクを大きく下げる有効な方法です。 現地の法規制や商慣行、調達ネットワークを熟知したパートナーがいることで、初期コストの削減や顧客開拓のスピードアップが見込めます。政府機関や現地ゼネコンとの信頼関係構築においても、パートナーの存在が大きな力になります。まずは小規模な協業から始めて、段階的に関係を深めていく進め方が現実的です。
PPP方式とはどのような仕組みですか?日本企業も活用できますか? PPPとは「官民連携」のことで、政府と民間企業が役割を分担してインフラ整備を進める仕組みです。 ベトナム政府は高速道路などの大型インフラ整備においてPPP方式を積極的に導入しており、外資企業の参加も認められています。資金調達から設計・施工・運営まで民間が担う案件も多く、日本企業にとって技術力と資金力を活かした参入機会が広がっています。ただし現地の法制度や手続きへの理解が前提となるため、専門家や現地パートナーとの連携が不可欠です。
ベトナムの再生可能エネルギー政策は建設市場にどう影響しますか? 政府が2030年までに再エネ比率を28〜36%に引き上げる方針を掲げており、太陽光・風力・蓄電設備の建設需要が急増しています。 電力開発マスタープランに基づき、発電所の建設だけでなく送電網の増強や蓄電施設の整備も計画されています。さらに2050年に向けた水素生産戦略も始動しており、製造・輸送・貯蔵施設の建設という新たな市場が生まれつつあります。脱炭素技術を持つ日本企業にとって、参入しやすい成長領域です。
ベトナム建設市場への参入で失敗しないために最も大切なことは何ですか? 自社の強みと現地のニーズが交わる領域を明確にした上で、現地パートナーと段階的に関係を築いていくことが最も重要です。 「成長市場だから」という理由だけで進出しても、現地の商慣行や規制への対応が不十分では成果につながりません。FDI需要・公共インフラ・住宅供給という3つの成長軸のどこに自社の強みを当てはめるかを丁寧に分析し、小さな実績を積み上げながら信頼関係を広げていく姿勢が長期的な成功を生み出します。
専門用語解説
FDI(海外直接投資): 外国の企業や投資家が、他の国に工場や施設を建設・運営するために資金を投じることです。ベトナムへのFDIは製造業やハイテク産業を中心に増加しており、工業団地や物流施設の建設需要を直接生み出す重要な指標です。
BIM(建設情報モデリング): 建物の形状・構造・設備などの情報を3次元のデジタルモデルとして一元管理する技術です。設計から施工・維持管理までの全工程で活用でき、手戻りの削減や工期の短縮に効果があります。日本企業が強みを持つ分野のひとつです。
GX(グリーントランスフォーメーション): 温室効果ガスの排出を減らし、経済活動を環境にやさしい形へと転換していく取り組みのことです。省エネ建材の活用やカーボンニュートラルな施工技術の導入が、建設業界でのGX推進の具体例として挙げられます。
DX(デジタルトランスフォーメーション): デジタル技術を活用して業務のやり方や仕組みを根本から改善することです。建設業界では施工管理のデジタル化、現場の安全監視システム、BIMの活用などが代表的なDXの取り組みとして進んでいます。
PPP(官民連携): 政府と民間企業が資金やノウハウを持ち寄り、道路や鉄道などのインフラ整備を共同で進める仕組みです。政府だけでは賄えない大型投資を実現する手段として、ベトナムの高速道路整備などで積極的に活用されています。
CIM(建設情報モデリング・インフラ版): BIMのインフラ版として、道路や橋梁・トンネルなどの土木構造物の設計・施工・維持管理情報をデジタルで統合管理する技術です。大規模な公共インフラ整備が進むベトナムでは、今後の普及が期待されています。
ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル): 建物で消費するエネルギーと、太陽光発電などで生み出すエネルギーを差し引きゼロにすることを目指した建物の設計・建築手法です。国際的な脱炭素化の要請が高まる中、外資系の開発事業者を中心に需要が広がっています。
執筆者プロフィール
小甲 健(Takeshi Kokabu) AXConstDX株式会社 代表取締役CEO/株式会社OneTechnologyJapan 特別顧問
製造業・建設業に精通した、技術起点の経営者型コンサルタントです。ソフトウェア開発歴20年以上を持ち、CADゼロからの業務構築や大規模DX推進を数多く手がけてきました。赤字案件率0.5%未満・提案受注率83%という高い成果を維持し続けており、現場課題の本質的な解決力と実行力に定評があります。
近年は生成AIを活用した業務改革・戦略支援・コンテンツ制作に加え、GX(グリーントランスフォーメーション)をDXや経営戦略と統合した「実装型GX戦略」に注力しています。脱炭素・省エネ・資源効率化を、IT・データ・業務設計の観点から企業の収益性と競争力に直結させる支援を行っています。
- ハーバードビジネスレビュー 寄稿2回
- CES(国際コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)視察
- btraxデザイン思考研修(サンフランシスコ)受講
- シリコンバレー視察5回以上
- AI・DX・GX・経営・マーケティングを横断するハイブリッド型コンサルタント
先見性ある意思決定と、業界構造の転換(DXからGXへ)を見据えた先行アクションを得意とし、日本の製造・建設業がグローバル競争の中で優位性を保つための戦略立案と実装支援を続けています。
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