あなたの仕事や暮らしを支えるインフラが、静かに限界を迎えつつあります。老朽化、担い手不足、地方の交通消滅——これらはすべてつながった問題です。国交省の2026年度予算6兆円が示す「守り、組み替える」という歴史的転換を、この記事では建設・交通・物流・GXの視点から一気に解説します。
はじめに
日本のインフラは今、大きな岐路に立っています。
老朽化が進む道路や上下水道、慢性的な担い手不足に苦しむ建設現場、移動手段を失いつつある地方の交通。これらはすべて、「壊れてから直す」という設計思想が限界を迎えたサインだといえます。
国土交通省は2026年度予算6兆円を通じて、その発想を根本から変えようとしています。本記事では建設DX、交通再編、インフラ老朽化、物流改革、GX投資という五つの視点から、政策の全体像と現場への影響をわかりやすくお伝えします。
国交省2026年度予算が変えるインフラ行政の全体像

2026年度、国土交通省は6兆円を超える予算を投じ、日本のインフラ行政を根本から変えようとしています。
これまでの「壊れたら直す」という発想から、「壊れる前に守り、必要なところを組み替える」というアプローチへの転換が始まりました。
人口減少が進む日本では、新しく整備するよりも既存インフラをいかに賢く維持し再編するかが問われています。この章では2026年度予算が示す国土政策の全体像と、老朽化対策、社会資本整備重点計画の内容を解説します。
「予防保全」とは何か?2026年予算が示す新発想
予防保全と再設計という二軸が、6兆円予算の根底にある新発想だ。
国土交通省の最新発表を追うと、日本の国土政策がいま大きく方向転換していることがわかります。
中心にあるのは二つの軸です。壊れる前に守る「予防保全」と、人口減少社会でも機能するよう都市や交通を組み替える「再設計」です。
2026年度予算では、国費総額6兆749億円のうち公共事業関係費が5兆2,950億円とされました。災害対応、老朽化対策、物流、地域交通、GX、DXを一体で進める姿勢が前面に出ています。
従来の「壊れたら直す」という事後対応から、インフラ全体を能動的に守り直す発想への転換が、今回の予算の根底をなしています。新たに整備するよりも既存のインフラをどう維持し、どう組み替えるかが問われる時代に入りました。
この視座の転換こそが、2026年度国土交通行政の最大のテーマです。建設、交通、インフラのすべての分野に共通する底流として、今後のあらゆる政策を貫いていくことになります。
老朽インフラ対策に8,673億円!予算の使い道とは
八潮市陥没事故を契機に8,673億円を投じ、事後対応から予防保全へ転換する。
最も象徴的なのは、埼玉県八潮市の道路陥没事故を踏まえた老朽インフラ対策の加速です。
国交省は上下水道管路、橋梁、トンネル、道路附属物、港湾、空港、公営住宅まで、幅広い分野で予防保全型メンテナンスへの転換を打ち出しました。
下表は、今回の対策が対象とする主なインフラ分野と、それぞれの主要な取り組み内容を整理したものです。
表1:老朽インフラ対策の対象分野と主な取り組み
| 対象分野 | 主な取り組み内容 |
| 上下水道管路 | 管路の更新・耐震化、リダンダンシー確保 |
| 橋梁・トンネル | 予防保全型点検、補修・更新の前倒し |
| 道路附属物 | 標識・照明などの定期点検と計画的更新 |
| 港湾・空港 | 施設の耐震強化、戦略的インフラ管理の導入 |
| 公営住宅 | 老朽化棟の再編・集約と維持管理の効率化 |
2026年度予算では、インフラ老朽化対策として8,673億円を計上しています。上下水道の更新や、リダンダンシー確保、戦略的なインフラ管理の推進も明記されました。
「壊れたら修繕する」という事後対応から脱し、損傷が生じる前に手を打つ考え方を全分野に広げることが主眼です。
老朽化が進む社会インフラは、放置すれば市民生活や経済に直結するリスクを内包しています。重大事故が起きれば復旧コストは膨大になり、地域経済への打撃も避けられません。
今回の予算措置は、そうした危機感を数字で裏付けた点に意義があります。国が老朽化対策を根幹課題として正面から捉えた姿勢を示しています。
重点計画が示す国土再設計の3つの優先事項

重点計画は新設より「再編・集約・最適化」の三優先を国土政策の核心に据えた。
一方で、国交省は守り一辺倒ではありません。
2026年1月に閣議決定された第6次社会資本整備重点計画と第3次交通政策基本計画は、「社会資本整備」と「交通政策」を車の両輪として一体運用する枠組みです。
共通のゴールは、人口減少という危機を好機に変え、一人ひとりが豊かさと安心を実感できる持続可能な経済社会の実現に置かれています。
両計画が示す具体的な優先事項は三つあります。第一は既存資産の賢い活用、第二は人と機能の集約と再配置、第三はインフラの量より質と配置の最適化です。
道路や港や空港を単純に増やすのではなく、どこに何を集め直すかが政策の本丸です。人口が減り続ける日本では、新設よりも再編と集約の判断が地域の将来を左右します。
既存ストックを賢く活かす発想への転換が政策の核心です。この再設計の思想をどれだけ現場の実践に落とし込めるかが、施策の成否を最終的に決する鍵となっています。
建設DX・担い手不足:建設業界が直面する2つの課題
建設業は今、二つの大きな課題に同時に向き合っています。
一つは人手不足と資材高騰を背景とした「担い手確保と処遇改善」の問題です。もう一つは、BIMやDXを活用した「現場の作業構造の変革」です。
国交省は制度改革とデジタル化を両輪として進め、2040年に向けた持続可能な建設業の実現を目指しています。この章では担い手確保に向けた制度改革の中身と、BIMやi-Construction2.0が現場にもたらす変化を具体的に解説します。
建設業の担い手不足をどう解決するか?制度改革の中身
担い手3法を軸に適正価格と処遇改善を前提とした産業構造の再設計が始まっている。
建設分野では、人手不足と資材高騰を前提にした制度設計が進んでいます。
国交省は「第三次・担い手3法」を踏まえ、労務費に関する基準の実効性確保、週休2日の実現、建設Gメン(国交省が設置した不正取引の監視チーム)による取引適正化、外国人材の受入れと育成を通じて、持続可能な建設業の実現を目指しています。
「安く早くたくさん作る」だけでは、もはや成り立ちません。適正価格、適正工期、処遇改善を前提に、産業としての根本的な再設計が不可欠だという認識が業界全体に広まっています。
建設業は長らく低賃金、長時間労働の構造を抱えてきました。これ以上放置すれば担い手不足はさらに深刻化します。
法整備と発注慣行の見直しを両輪として、業界全体の体質改善を図る取り組みが本格化しています。価格転嫁が適正に行われるかどうかが改革の成否を分ける鍵であり、発注者側の意識変革もまた欠かせない要素です。
適正な報酬が広く行き渡る産業構造を整えてこそ、次世代の担い手を育てる確かな土台が生まれます。
BIM・DXが建設現場の作業構造を変える理由
BIM・DXで2040年に省人化3割・生産性1.5倍を目指し、現場構造そのものを変える。
i-Construction2.0やBIM/CIM(建物や土木構造物を3次元データで統合管理する技術)、建築や都市のDXが同時に加速しています。
2040年までに建設現場の省人化を3割、生産性を1.5倍にする方針が示されました。以下の表は、i-Construction2.0の主な重点施策とそれぞれが現場にもたらす効果を整理したものです。
表2:i-Construction2.0の重点施策と期待効果
| 施策 | 概要 | 期待される主な効果 |
| ICT施工 | 3Dデータを使った自動整地・測量 | 測量工数削減・精度向上 |
| 遠隔臨場 | カメラ・通信で現場を遠隔確認 | 監督者の移動コスト削減 |
| UAV点検 | ドローンによる構造物の定期点検 | 危険箇所への立入不要化 |
| 自動化技術 | 重機の自動・半自動運転 | 省人化・作業時間の短縮 |
| データ管理 | 設計から維持管理までの情報一元化 | 意思決定の高速化・品質向上 |
ICT施工、遠隔臨場、自動化技術、UAVによる点検、データ管理環境の整備などが重点施策として並んでいます。
これは単なるデジタル化ではありません。現場の作業構造そのものを変える動きであり、設計、施工、維持管理を横断したデータ連携が前提となります。
建設会社だけでなく、発注者、自治体、測量、保全、情報基盤を持つ企業まで広く巻き込む変化です。プロジェクト全体のデータを一元管理し、意思決定を高速化する基盤整備が求められています。
DXの恩恵を省人化と品質向上の両面に結びつけられるかどうかが、今後の建設業の競争力を左右します。技術を活かす組織と人材の変革こそが、デジタル投資の成果を決定づける根本的な要因です。建設・製造業へのDX導入を20年以上支援してきた実務の現場でも、この「人と組織の変革」こそが最大の成否要因であることが繰り返し確認されています。
地域交通・都市鉄道:交通政策DXが進む2つの方向
交通政策は今、地方と都市でまったく異なる課題を抱えながら、共通して「再設計」という方向に進んでいます。
地方では移動手段そのものが失われる「交通空白」が深刻化し、都市では空港や鉄道アクセスの強化が国際競争力に直結しています。
国交省は265億円を地域交通の再設計に投じながら、都市部の鉄道や空港ネットワーク強化も同時に推進しています。この章では地域交通と都市交通、それぞれの課題と政策の方向性を解説します。
交通空白とは何か?265億円で進む地域交通の再設計
265億円を投じたデマンド交通と広域連携で、地方の交通空白解消に挑む。
交通分野では、「交通空白」(公共交通にアクセスできない地域や時間帯)の解消が大きな政策テーマになっています。
国交省は2026年度予算で地域交通の再設計に265億円を計上しました。需要に応じて動くデマンド交通、公共ライドシェア、事業者間の共同化、システム標準化、自動運転の社会実装を全国で進める方針です。
これは地方の「便利な足」を補う施策であると同時に、自治体単独では維持しきれない移動サービスをデジタルと広域連携で再構築する試みでもあります。
過疎化が進む地域では、バス路線の廃止や運転手不足が深刻化しています。従来の公共交通の枠組みだけでは対応に限界があるのが現実です。
移動手段を確保しながらコストを抑えるには、複数の事業者や自治体が連携し、需要に応じた柔軟なサービスを組み合わせる発想が不可欠です。
交通空白を放置すれば人口流出に拍車がかかり、地域の活力が失われていきます。地域交通の再設計は、地方の存続をかけた取り組みです。
都市部の空港・鉄道アクセス強化が目指すものとは
都市部は空港・鉄道・道路・港湾を一本の設計図でつなぎ国際競争力を高める。
都市部では、鉄道ネットワークや空港アクセスの強化が続いています。
羽田、成田、関西、中部、那覇などの主要空港に加え、新空港線やなにわ筋線、東京圏の都市鉄道のあり方についての調査も進められています。
国交省の関心は「新線を敷く」ことだけではありません。空港、鉄道、道路、港湾をつなぎ、人の流れと物の流れを一本の設計図で見ることへと移っています。
人口が集中する地域では国際競争力の強化が、地方では生活の維持が目的です。異なるゴールを同じ交通政策の中で扱っているのが今の特徴といえます。
下表は、都市部と地方で交通政策の目的・課題・主なアプローチがどのように異なるかを対比したものです。
表3:都市部と地方の交通政策の比較
| 項目 | 都市部 | 地方 |
| 主な目的 | 国際競争力の強化 | 住民の移動手段の維持 |
| 主な課題 | 空港・鉄道アクセスの最適化 | 交通空白・路線廃止 |
| 主なアプローチ | 新路線整備・ネットワーク統合 | デマンド交通・ライドシェア |
| 政策の性格 | 攻め(成長・競争力) | 守り(生活インフラ確保) |
都市と地方では課題の性質が根本的に異なるため、画一的な解決策は通用しません。地域特性に合わせた交通体系の最適化が求められており、インフラの整備と運営をセットで考える視点が一層重要になっています。
国際競争と生活保障を同時に達成する設計力が今の交通政策に求められており、その調和をいかに実現するかが日本全体の持続可能性を支える根幹の問いです。
インフラ老朽化は安全保障問題:国が動く2つの理由
インフラの老朽化は、もはや単なる修繕の問題ではありません。国の安全保障に直結する課題として位置づけられています。
気候変動による豪雨の激化や大規模地震の切迫という現実の中で、従来の対症療法では社会機能を守りきれないという危機感が政策を動かしています。
特に上下水道は、平時の生活基盤としても災害時のライフラインとしても重要度が高い分野です。この章では、国土強靱化計画に基づく取り組みと、上下水道の持続可能な維持管理に向けた施策を解説します。
国土強靱化計画で変わる防災インフラの守り方とは
強靱化計画で多重防護の発想を基本原則とし、インフラを安全保障レベルで守る。
インフラの老朽化は、いまや単なる保全課題ではなく、国の安全保障に近い位置づけになっています。
国交省は第1次国土強靱化実施中期計画に基づき、流域治水、上下水道の耐震化、道路ネットワークの機能強化、TEC-FORCE(大規模災害時に派遣される技術者チーム)の拡充を切れ目なく進めています。
背景には、気候変動で豪雨が激化し、大規模地震も切迫する中で、従来型の対症療法では社会機能を守れないという強い危機感があります。
近年の大規模災害では、インフラの損傷が復旧の遅れや甚大な経済損失に直結することが繰り返し示されてきました。
一つの施設が機能不全に陥っても社会全体が止まらないよう、ネットワーク全体の冗長性と回復力を高めることが強靱化の核心です。想定外の事態にも耐えうる多重防護の発想が、インフラ政策の基本原則として定着しつつあります。
防災と減災を両輪として、次世代に安全な国土を引き継ぐための取り組みが本格的に進められています。
上下水道インフラを守るための広域化・民間連携とは
上下水道は広域化と民間連携でコストを抑えつつ、システム全体の継続性を守る。
上下水道は、災害時だけでなく平時の生活基盤としても重要度が高い分野です。
今回の予算では、上下水道管路の更新、急所となる施設の耐震化、マンホールトイレの整備、施設再編を通じた一体的な強化が進められます。
インフラを「点」で見るのではなく、システム全体で止まらないようにする発想が強まっています。自治体の維持管理能力や広域連携の巧みさが、そのまま地域の回復力の差となって現れます。
人口減少が進む中、単独の自治体が老朽施設を更新し続けることには財政的な限界があります。広域化や民間との連携を通じてコストを抑えながら、サービス水準を落とさない仕組みの構築が急務となっています。
上下水道の安定供給は市民生活の根幹です。その持続可能性を確保する取り組みはもはや待ったなしの状況です。
インフラを「守る」仕組みを社会全体で根本から再設計する必要性がかつてなく切実に問われています。具体的かつ迅速な行動が求められている局面です。
物流DXとGX投資:2030年に向けた2つの改革軸
物流とGXは一見別々の課題に見えますが、どちらも「インフラを次世代型に作り替える」という点で共通しています。
2030年に向けた物流改革では、ドライバー不足やサプライチェーンの非効率が正面から問われており、単なる道路整備では解決できない段階に来ています。
一方のGX投資では、脱炭素が「環境コスト」ではなく「産業競争力の源泉」として再定義されています。この章では物流DXとGX施策が日本の社会インフラにどのような変化をもたらすかを解説します。
2030年物流改革の全体像:モーダルシフトと自動化
2030年に向けモーダルシフトと自動化を組み合わせ、物流網を社会インフラとして再設計する。
物流は、建設と交通をつなぐ横串として扱われています。
国交省は大都市圏の環状道路、空港や港湾へのアクセス、SA・PAの機能向上、自動運転トラックやダブル連結トラックの活用、内航海運や鉄道へのモーダルシフト(輸送手段をトラックから船や鉄道に切り替えること)を推進しています。2030年度までの集中改革期間で物流の効率化を目指します。
人手不足が深刻になるほど、物流は道路整備だけでは解決できません。商慣行の見直しや荷主、消費者の行動変容まで含めた包括的な政策が必要となります。
ドライバー不足を背景とした「物流の2024年問題」が示すとおり、現行の輸送体制を維持するだけでは限界があります。
輸送手段の多様化と荷主側の意識改革を組み合わせ、サプライチェーン全体の効率を引き上げる改革が不可欠な段階にあります。
物流網の再設計は産業競争力の維持にとどまらず、地域経済の活性化や生活物資の安定供給にも直結する社会インフラです。その戦略的な重要性はいま大きく高まっています。
GXが次世代インフラ投資になる理由とリスク
GXは環境コストではなく産業競争力と投資誘発を生む次世代インフラ投資として動く。
GX(経済活動を脱炭素型に転換するグリーントランスフォーメーション)も同時に進行しています。
住宅や建築物の省エネ化、グリーンインフラ、カーボンニュートラルポートの形成、SAF(持続可能な航空燃料)の導入、ゼロエミッション船、洋上風力の基地港湾整備など、国交省は交通、港湾、空港、建築の各領域に脱炭素を組み込んでいます。
重要なのは、GXが環境政策の付属物ではない点です。産業競争力や投資誘発と結びついた「次のインフラ投資」として明確に位置づけられています。
脱炭素化への対応が遅れれば、国際競争の場で日本の港湾、空港、建設業が取り残されるリスクがあります。逆に先行投資でGX対応を整えれば、新たな産業の集積や雇用の創出につながる可能性も大きくなります。
インフラ整備と脱炭素の両立を前提に、政策と民間投資を組み合わせた長期的な設計が今後の主要な焦点となります。
GXへの対応をコストではなく戦略的な投資として捉える視点こそが、日本の産業構造を次世代へと刷新する起点となりえます。DXとGXを経営戦略として統合する「実装型GX戦略」の支援に携わる立場からも、この認識の転換がいかに重要かを日々の業務の中で実感しています。
現場で問われる実行力:2026年度以降の3つの焦点
予算規模がどれほど大きくても、現場で実行されなければ政策の意味はありません。
2026年度以降の国土政策の評価を決めるのは、計画の優劣ではなく、自治体や企業や現場が実際に動けるかどうかにかかっています。国交省の大方針転換が「絵に描いた餅」に終わらないために、何が問われているのかを整理します。
この章では、政策の成否を左右する三つの焦点を明確にしながら、インフラDX時代における現場の実行力と組織変革の重要性について考えていきます。
国交省予算が現場に届くかを左右する3つの問い
予算の成否は執行力・価格転嫁・DX定着という三つの現場力が左右する。
今後の注目点は三つあります。
第一は、2026年度予算が現場でどこまで実行されるかです。予算規模そのものより、自治体の執行力、発注の平準化、価格転嫁、担い手確保が進むかどうかが成果を左右します。予算が積まれても現場に届かなければ、政策の実効性は上がりません。
第二は、交通空白や老朽インフラの課題が地域ごとに「再編」へとつながるかです。補助金の配分にとどまらず、路線の統廃合、広域化、官民連携が実際に機能するかが焦点になります。
第三は、DXが現場の省人化や維持管理の効率化に本当に結びつくかです。BIM、PLATEAU(国土交通省が整備する3D都市モデル)、地理空間情報、行政データの連携が試金石となります。仕組みを整えるだけでなく、それを使いこなす人材と組織の力が問われる局面でもあります。提案受注率83%・赤字案件率0.5%未満という実績を持つ建設・製造業のDX支援の経験からも、制度設計よりも人材・組織変革の巧拙が最終的な差異を生むことは明らかです。
三つの問いへの答えが、2026年度以降の国土政策の実質的な評価を決めることになります。政策の言葉が現場の行動に変わるかどうかに、日本のインフラの未来がかかっています。
政策の真価は現場の実行力で決まる:今後の展望
制度と現場がかみ合ったとき政策の真価が発揮され、変革の主体は現場の実践者だ。
国交省の最新発表を一言でまとめるなら、「壊れたら直す日本」から「壊れないように組み替える日本」への歴史的な移行です。
建設は単独産業ではなく、交通、物流、観光、防災、脱炭素、デジタルと接続された国づくりの実装装置になりつつあります。
これからの焦点は予算の多寡ではありません。この大きな方針転換を現場にどれだけ的確かつ迅速に落とし込めるかが問われています。
施策の意図がいかに優れていても、実行する自治体、企業、現場の人材が伴わなければ絵に描いた餅に終わります。問われているのは、制度設計の巧みさだけでなく、組織と人の変革への強い意志と粘り強い実践です。
「守り」と「攻め」を同時に進める国交省の戦略が、日本のインフラと産業の未来をどう形づくるか。その答えは現場の実行力にかかっています。
制度と現場がかみ合ったとき、はじめて政策の真価が発揮されます。変革の主体は政府ではなく、現場で汗をかく一人ひとりの実践者です。
まとめ
2026年度の国交省予算は、「壊れたら直す日本」から「壊れないように守り、組み替える日本」への転換を明確に示しています。
建設分野では担い手確保と建設DXの両輪が動き出し、交通分野では地域の交通空白解消と都市の国際競争力強化が同時に進みます。インフラ老朽化は安全保障レベルの課題として位置づけられ、物流改革とGX投資は次世代の産業基盤を形成する戦略として動いています。
どれほど優れた政策も、現場で実行されなければ意味をなしません。自治体の執行力、発注慣行の見直し、BIMやDXの現場定着が、この大転換の成否を左右します。
建設、交通、インフラに関わるすべての人にとって、2026年度は傍観ではなく「動く年」です。政策の変化を自社や自組織の戦略に落とし込む視点が、今まさに求められています。
FAQ
予防保全とは何ですか?これまでの修繕と何が違うのですか? 壊れてから直すのではなく、壊れる前に手を打つ考え方が「予防保全」です。
従来のインフラ管理は、老朽化や故障が起きてから修繕する事後対応が中心でした。予防保全はその逆で、点検データをもとに損傷が生じる前に補修・更新を行います。結果として、重大事故のリスクを減らし、長期的な維持管理コストも抑えやすくなります。2026年度予算では、この考え方をすべての分野に広げることが明記されています。
建設業の担い手不足は、具体的にどのような対策で解決しようとしていますか? 週休2日の実現・適正価格の確保・外国人材の育成という三つの柱で対策が進んでいます。
国交省は「第三次・担い手3法」を踏まえ、労務費の基準を実効性ある形で整備しています。建設Gメンによる不正取引の監視も強化され、低賃金・長時間労働の慣行を是正する取り組みが本格化しています。価格転嫁が適正に行われるかどうかが鍵であり、発注者側の意識改革も同時に求められています。
交通空白とはどういう状態を指しますか?地方だけの問題ですか? バスや鉄道がなく、移動手段が事実上ゼロになる地域や時間帯のことを指します。
交通空白は、過疎化が進む地方に多く見られますが、都市部の郊外や夜間・早朝の時間帯にも起きることがあります。移動手段がなければ通院や買い物にも支障が出るため、地域の活力低下や人口流出に直結します。国交省は265億円を投じてデマンド交通や公共ライドシェアの整備を全国で進める方針です。
BIMとはどういうもので、建設現場にどんな効果をもたらしますか? 建物を3次元データで管理する仕組みで、設計から完成後の管理まで一貫して活用できます。
BIMとはBuilding Information Modelingの略で、建物の形状だけでなく材料・コスト・工程などの情報を一つのデータとして管理する技術です。設計ミスの早期発見や工期短縮に役立つほか、完成後の維持管理にも活用できます。国交省は2040年までに建設現場の省人化3割・生産性1.5倍を目標に、BIM/CIMの普及を推進しています。
GXとはどういう意味ですか?なぜインフラ政策に関係するのですか? 経済活動を脱炭素型に転換する取り組みで、インフラ整備とセットで進む次世代投資です。
GXはGreen Transformationの略で、化石燃料への依存を減らし、再生可能エネルギーや省エネを中心とした経済の仕組みをつくることを指します。港湾・空港・建築・交通など、インフラのあらゆる領域が脱炭素化の対象となるため、インフラ政策と切り離せない関係にあります。対応が遅れると国際競争での遅れにつながるリスクもあります。
モーダルシフトとは何ですか?物流の課題とどう関係しますか? 荷物の輸送をトラックから船や鉄道に切り替えることで、ドライバー不足と環境負荷を同時に軽減します。
現在の物流はトラック輸送に大きく依存していますが、ドライバー不足が深刻化しており、「物流の2024年問題」として注目されています。モーダルシフトは、長距離輸送を内航海運や鉄道に移すことで輸送効率を高め、ドライバーへの負担も軽減する手段です。国交省は2030年度までの集中改革期間でこの取り組みを推進しています。
国土強靱化とは何ですか?普通のインフラ整備と何が違うのですか? 災害が起きても社会全体が止まらないよう、インフラを多重に備える考え方です。
国土強靱化は、単に施設を新しくするのではなく、一部が壊れても全体が機能し続けられる冗長性と回復力を高めることを目指しています。気候変動による豪雨や大規模地震に備え、流域治水・道路ネットワーク・TEC-FORCEの拡充などが一体で進められています。安全保障に近いレベルの政策として、国は重点的に取り組んでいます。
専門用語解説
予防保全: 損傷や故障が起きる前に点検・補修・更新を行うインフラ管理の考え方です。事後対応と比べ、重大事故を防ぎやすく、長期的なコスト削減にもつながります。2026年度の国交省予算ではこの考え方を全分野に広げることが打ち出されています。
BIM/CIM: 建物や土木構造物を3次元データで管理する技術です。設計・施工・維持管理を一貫してデジタルで扱えるため、ミスの削減や業務効率化に役立ちます。国交省は2040年に向け建設現場への普及を推進しています。
i-Construction2.0: ICT・自動化・データ活用を組み合わせて建設現場の生産性を高める国交省の取り組みです。省人化3割・生産性1.5倍を2040年の目標に掲げ、測量・施工・検査のデジタル化を一体で進めています。
GX(グリーントランスフォーメーション): 経済活動全体を脱炭素型に転換する取り組みのことです。港湾・空港・建築・交通など幅広いインフラ分野が対象となっており、環境対策にとどまらず産業競争力の強化にもつながる投資として位置づけられています。
モーダルシフト: 荷物の輸送手段をトラックから船や鉄道に切り替えることです。ドライバー不足の緩和と二酸化炭素排出量の削減を同時に実現できる手段として、2030年度に向けた物流改革の柱の一つになっています。
TEC-FORCE(テックフォース): 大規模災害が発生した際に、国交省が被災地に派遣する技術者チームのことです。道路・河川・港湾などの被害状況を迅速に調査し、復旧活動を支援します。国土強靱化の実働部隊として、拡充が進められています。
PLATEAU(プラトー): 国土交通省が整備を進める日本全国の3D都市モデルのことです。建物・道路・地形などの情報をデジタルで再現し、防災シミュレーションや都市開発の計画立案に活用されています。BIMや地理空間情報との連携が今後の試金石とされています。
執筆者プロフィール
小甲 健(Takeshi Kokabu)
AXConstDX株式会社 CEO/株式会社OneTechnologyJapan 特別顧問
製造業・建設業に精通した、技術起点の経営者型コンサルタントです。ソフトウェア開発歴20年以上を基盤に、CADゼロからの業務構築や大規模DX推進を数多く手がけてきました。赤字案件率0.5%未満、提案受注率83%という実績が示すとおり、現場課題の解決と経営成果の両立を強みとしています。
生成AIを活用した業務改革、建設・製造業へのDX導入支援、コンテンツ制作・戦略立案を主な業務としながら、近年はGX(グリーントランスフォーメーション)を経営・DXと統合した「実装型GX戦略」にも注力しています。脱炭素・省エネ・資源効率化を、IT・データ・業務設計の視点から収益性と競争力に直結させる支援を行っています。
先見性と迅速な意思決定を武器に、業界構造転換(DX→GX)を見据えた先行アクションを得意とするハイブリッド型コンサルタントです。
主な実績・活動
- ハーバードビジネスレビュー 寄稿2回
- CES(世界最大規模の家電・テクノロジー見本市)視察
- btraxデザイン思考研修(サンフランシスコ)受講
- シリコンバレー視察 5回以上
- 影響を受けた人物:P.F.ドラッカー、孫正義ほか