ベトナムの建設市場が再び動き出す今、BIM需要の高まりを見逃すか、次の成長機会としてつかむかで、日系建設企業の未来は大きく変わります。本記事では、市場回復の背景からBIM・建設DXの勝ち筋までをやさしく整理します。

ベトナム建設市場はなぜ回復しているのか
ベトナムの建設市場は、停滞期を抜けて再び成長局面に入りつつあります。特に注目すべきなのは、単なる景気回復ではなく、公共投資、都市開発、外資誘致が重なり合って需要を押し上げている点です。日系建設企業が市場機会を見極めるには、まず回復の背景と成長領域を整理しておく必要があります。
建設需要が回復した3つの理由
公共投資・制度改革・製造業移転が需要回復を支えています。
2023年から2024年にかけて、ベトナムの建設・不動産市場には停滞感がありました。不動産債務問題や金融引き締めの影響により、開発投資が慎重になり、民間プロジェクトの進行にも遅れが見られました。しかし2025年後半から、市場は明確に回復基調へ入り、2026年には再び成長フェーズに移り始めています。
この回復を理解するうえでは、単に景気が戻っていると見るのではなく、需要を押し上げている要因を分けて捉えることが重要です。特にベトナムでは、政府の投資方針、制度面の改善、製造業の立地変化が重なり合い、建設市場の再活性化につながっています。製造業・建設業のDX支援に関わる立場から見ても、こうした需要変化は単なる受注機会ではなく、設計・施工・管理の仕組みを見直す転換点として捉える必要があります。
公共投資の拡大
高速道路、都市鉄道、港湾、空港などのインフラ整備が進むことで、建設需要が継続的に生まれています。制度改革による投資環境の改善
外資誘致や不動産関連制度の見直しが進むことで、投資家や企業が再び動きやすくなっています。製造業のサプライチェーン再編
中国依存を見直す流れの中で、ベトナムの工業団地や物流施設への需要が高まっています。
この回復は一時的な反動ではなく、ベトナム経済が次の成長段階へ移る兆しとして捉えるべきです。日系建設企業にとっては、回復が本格化する前の段階で現地市場との接点を持てるかどうかが、中長期の競争力を大きく左右します。
インフラ・不動産・都市開発の成長分野とは?
3つの成長分野が連動し、建設市場全体を押し上げています。
ベトナム建設市場の成長を支えているのは、インフラ、不動産、都市開発の3分野です。これらは別々に動いているのではなく、互いに連動しながら市場全体を押し上げています。そのため、参入を検討する企業は、単一分野だけを見るのではなく、分野同士のつながりまで理解することが重要です。
インフラ分野では、南北高速道路、都市鉄道、港湾、空港などの国家プロジェクトが引き続き重視されています。物流効率の改善や都市間移動の高速化は、経済成長を支える基盤であり、今後も継続的な投資が見込まれます。不動産分野では、住宅、商業施設、工業団地、物流施設への需要が広がっています。特に外資系製造業の進出により、工場建設や倉庫開発の重要性が高まっています。
都市開発分野では、ホーチミンやハノイを中心に、都市圏の拡張やスマートシティ構想が進みつつあります。交通、住宅、商業、公共施設を一体で整備する複合開発も増えており、設計・施工・維持管理の高度化が求められています。こうした成長分野では、施工品質だけでなく、BIMや建設DXを活用したプロジェクト管理力も重要な評価軸になっていきます。
ベトナムBIM需要はなぜ急増しているのか
建設市場の回復と同時に、ベトナムではBIMや建設DXへの関心が急速に高まっています。背景にあるのは、プロジェクトの大型化、外資系案件の増加、設計・施工品質への要求の高まりです。従来の2D図面中心の管理だけでは対応しにくい場面が増え、BIMを使って情報を統合する必要性が現場で強く意識され始めています。

BIM導入が進む現場の変化とは?
2D図面中心から、BIMで情報をつなぐ現場へ変わっています。
ベトナムの建設現場では、従来の2D設計中心の進め方から、BIMを活用した3Dモデルベースの管理へと少しずつ移行が進んでいます。BIMとは、建物やインフラを3Dで表現するだけでなく、部材の寸法、数量、仕様、工程、維持管理情報などをまとめて扱う仕組みです。単なる作図ツールではなく、設計から施工、運用までをつなぐ情報基盤として使われます。
特に大規模インフラや外資系プロジェクトでは、BIM活用が実質的な標準要件になりつつあります。設計段階で3Dモデルを作成し、施工前に干渉チェックを行うことで、現場での手戻りを減らせます。また数量拾いや工程管理にも活用できるため、コスト管理やスケジュール管理の精度向上にもつながります。
BIM需要が高まることで、CADベンダーや建設DX企業の役割も変わっています。これまではソフトウェアの提供が中心でしたが、今後はBIM運用の設計、現場教育、クラウド環境の整備、データ連携まで含めた支援が求められます。CADや業務システムの構築経験を持つ支援者にとっては、単なるツール導入ではなく、現場業務に合う運用設計まで踏み込むことが重要になります。現地企業にとっても、BIMを導入するだけでなく、実務に定着させることが大きな課題になります。
BIMと建設DXで広がる5つの導入メリット
BIMと建設DXは品質・コスト・工期の管理精度を高めます。
BIMと建設DXの導入は、単に業務をデジタル化するだけではありません。設計、施工、維持管理までの情報をつなげることで、プロジェクト全体の透明性を高め、品質、コスト、工期を管理しやすくする効果があります。
特にベトナムのように建設需要が急拡大している市場では、人材不足や品質管理の課題も同時に大きくなります。そのためBIMと建設DXは、成長市場で安定した施工体制を築くための重要な手段になります。主な導入メリットは、次の5つです。
設計ミスや施工手戻りを減らせる
3Dモデル上で部材同士の干渉を確認できるため、現場で問題が発覚する前に修正しやすくなります。関係者間の情報共有がスムーズになる
発注者、設計者、施工者が同じモデルを参照することで、認識のずれを減らせます。数量拾いやコスト管理を効率化できる
BIMモデルに部材情報を持たせることで、必要な材料や数量を把握しやすくなります。工程管理を高度化できる
BIMとスケジュール情報を連携させることで、施工手順を可視化し、工事の進み方を事前に確認できます。完成後の維持管理にデータを活用できる
設備情報や点検履歴をデジタルで管理すれば、建物やインフラの長期運用にも役立ちます。
これらのメリットは、個別の業務改善にとどまらず、プロジェクト全体の管理品質を高めることにつながります。今後のベトナム建設市場では、BIMと建設DXをどう実務に定着させるかが、企業の競争力を左右する重要なテーマになります。
日系建設企業がベトナムで勝つ方法
ベトナム市場は成長機会が大きい一方で、日系企業が簡単に勝てる市場ではありません。価格競争、意思決定スピード、現地法規制、人材確保など、乗り越えるべき課題もあります。だからこそ重要になるのが、日本企業の強みをそのまま持ち込むのではなく、現地企業との連携を通じて、BIMと建設DXを実務に合う形で展開する戦略です。
日系企業が取るべき3つの参入戦略
品質管理・BIM提案・現地連携が参入成功の鍵になります。
日系建設企業がベトナム市場で競争力を高めるには、日本企業が持つ強みを明確にしながら、現地市場に合った形で展開することが重要です。ベトナムでは建設需要が拡大している一方で、価格競争、意思決定スピード、法規制、商習慣、人材確保など、乗り越えるべき課題もあります。
そのため、日系企業が単独で従来型の施工力だけを打ち出すのではなく、品質管理、BIM提案、現地連携を組み合わせて市場に入ることが現実的です。特に2030年に向けて市場が質的に高度化する中では、次の3つの参入戦略が重要になります。
品質管理と工程管理の強みを明確に打ち出す
日本企業は、安全管理、施工精度、納期管理において高い信頼を得やすい立場にあります。特に工場建設、物流施設、都市開発、インフラ整備では、品質を重視する発注者に対して差別化しやすくなります。BIMや建設DXを組み込んだ提案力を高める
単に施工するだけでなく、設計段階からBIMを活用し、施工計画、数量管理、工程管理、維持管理までつなげる提案ができれば、価格競争に巻き込まれにくくなります。AIやDXを活用した業務改善支援の視点を加えることで、現場の生産性向上と経営課題の解決を同時に進めやすくなります。現地パートナーとの協業体制を整える
ベトナムでは、法規制、商習慣、許認可、人材確保など、現地に根ざした知見が欠かせません。設計会社、施工会社、BIM人材、IT企業と連携し、エコシステムを形成することが重要です。
ベトナム建設市場の回復は、日系企業にとって再参入と事業拡大の好機です。同時に、従来型の建設企業から、BIMと建設DXを活用する総合的な建設パートナーへ進化できるかが問われています。今動く企業ほど、成長市場の中で有利なポジションを築きやすくなるでしょう。
FAQ
ベトナム建設市場はなぜ今注目されているのですか?
公共投資と都市開発が重なり、建設需要が再び高まっているためです。
ベトナムでは、インフラ整備や都市開発、工業団地の拡大が同時に進んでいます。停滞していた不動産市場にも回復の兆しがあり、建設関連企業にとって新たな商機が生まれています。特に日系企業にとっては、品質管理や工程管理の強みを活かしやすい局面です。
ベトナムでBIM需要が急増している理由は何ですか?
大型プロジェクトが増え、設計・施工情報を正確に管理する必要が高まっているためです。
従来の2D図面だけでは、複雑な建設プロジェクトの情報を十分に管理しにくくなっています。BIMを使うことで、設計、施工、維持管理の情報を一つのモデルで扱いやすくなります。外資系案件や大規模インフラでは、BIM活用が求められる場面も増えています。
日系建設企業にとってベトナム進出の好機と言える理由は何ですか?
品質・安全・工程管理の強みを求める案件が増えているためです。
ベトナムでは建設需要が拡大する一方で、施工品質や管理体制への要求も高まっています。日系企業は、丁寧な施工管理や安全管理、納期管理の面で信頼を得やすい立場にあります。ただし価格競争もあるため、BIMや建設DXを組み合わせた提案が重要になります。
BIM導入で建設現場はどのように変わりますか?
図面中心の管理から、情報を共有しながら進める現場へ変わります。
BIMでは、建物やインフラを3Dモデルで表し、部材の数量や仕様、工程情報などもまとめて扱えます。これにより、設計ミスの発見、施工前の干渉チェック、数量拾い、工程管理がしやすくなります。現場の手戻りを減らし、関係者間の認識のずれも防ぎやすくなります。
ベトナムで建設DXを進める際の注意点は何ですか?
日本のやり方をそのまま持ち込まず、現地の実務に合わせることです。
建設DXは、ツールを導入するだけでは成果につながりません。現地の設計会社、施工会社、発注者の業務フローに合わせて、BIMやクラウド環境を運用する必要があります。現地パートナーと連携し、教育やサポート体制まで整えることが成功の鍵になります。
BIMと建設DXは中小企業にも必要ですか?
大規模企業だけでなく、中小企業にも段階的な導入価値があります。
最初から高度なBIM運用を目指す必要はありません。まずは3Dモデルによる確認、図面管理、情報共有、数量把握など、効果が出やすい業務から始める方法があります。小さく始めて実務に定着させることで、将来的な受注力や生産性向上につながります。
日系企業がベトナム市場で成功するには何が重要ですか?
品質管理、BIM提案、現地連携を組み合わせることが重要です。
ベトナム市場では、価格だけで勝つのは簡単ではありません。日本企業の強みである品質管理や工程管理に加え、BIMや建設DXを活用した提案力が求められます。さらに、現地企業やBIM人材、IT企業との協業体制を整えることで、長期的な競争力を築きやすくなります。
専門用語解説
BIM:建物やインフラを3Dモデルで表し、寸法、数量、仕様、工程、維持管理情報などをまとめて扱う仕組みです。設計から施工、運用まで情報をつなげるために使われます。
建設DX:建設業務にデジタル技術を取り入れ、設計、施工、管理、情報共有を効率化する取り組みです。人手不足や品質管理の課題を解決する手段として注目されています。
2D図面:平面図や立面図のように、建物や設備を二次元で表した図面です。従来の建設現場で広く使われてきましたが、複雑な情報管理には限界があります。
3Dモデル:建物や設備を立体的に表現したデジタルデータです。完成形を視覚的に確認しやすく、設計ミスや施工上の問題を事前に見つけるために役立ちます。
干渉チェック:配管、梁、設備などが同じ場所でぶつかっていないかを確認する作業です。BIMを使うことで、施工前に問題を見つけやすくなり、現場の手戻りを減らせます。
公共投資:政府や自治体が道路、鉄道、港湾、空港などの社会基盤に投資することです。建設市場を押し上げる大きな要因となり、民間投資にも波及することがあります。
現地パートナー:進出先の国で協力する企業や専門人材のことです。ベトナムでは、法規制、商習慣、許認可、人材確保に詳しい現地パートナーとの連携が重要です。
執筆者プロフィール
小甲 健(Takeshi Kokabu)
AXConstDX株式会社 CEO
株式会社OneTechnologyJapan 特別顧問
小甲健は、製造業・建設業に精通した、技術起点の経営者型コンサルタントです。ソフトウェア開発歴は20年以上に及び、CAD、BIM、建設DX、生成AI、経営戦略、マーケティングを横断しながら、現場課題の解決と事業成長を支援しています。
特に、CADをゼロから構築する業務設計や、大規模DX推進、AIを活用した業務効率化、建設・製造分野向けのデジタル戦略支援を得意としています。これまでの実務では、赤字案件率0.5%未満、提案受注率83%という高い成果を維持し、現場理解と経営視点を組み合わせた実行力を強みとしています。
近年は、生成AIを活用した業務改革、建設DX、コンテンツ制作、戦略支援に加え、GXを経営・DXと統合した「実装型GX戦略」にも注力しています。脱炭素、省エネ、資源効率化を単なる社会課題としてではなく、収益性と競争力に直結する経営テーマとして捉え、IT・データ・業務設計の視点から支援を行っています。
専門領域:AI、DX、GX、CAD、BIM、建設DX、製造業DX、経営戦略、マーケティング
実績:ソフトウェア開発歴20年以上、CADゼロ構築、大規模DX推進支援
成果指標:赤字案件率0.5%未満、提案受注率83%
役職:AXConstDX株式会社 CEO、株式会社OneTechnologyJapan 特別顧問
寄稿実績:日本版ハーバードビジネスレビュー寄稿 2回
海外視察・研修:CES視察 1回、シリコンバレー視察 5回以上、btraxデザイン思考研修受講
関心領域:生成AIによる業務改革、建設・製造業のDX推進、GX戦略、アジア市場展開
ドラッカー、孫正義、白潟敏朗、安達裕哉、後藤稔行氏らの思想や実務知見にも影響を受けながら、業界構造の変化を先読みし、迅速に行動へ移すことを重視しています。建設業・製造業がDXからGXへ移行する時代において、現場で使える技術と経営成果をつなぐ支援を続けています。






