改修工事のたびに、図面が見つからない、現況と合わない、そんな壁にぶつかってはいませんか。何度も現地に足を運び、測りもれに気づいて青ざめた経験がある方も多いはずです。実はたった7時間のスキャンだけで、建物の現況を丸ごとデータ化できる方法があります。読み終えたとき、次の改修工事への向き合い方が変わるはずです。
はじめに
改修工事に取りくむとき、こんな壁にぶつかる現場は少なくありません。「図面が見つからない」、あるいは「図面はあるが現況とちがう」。実測のために何度も現地へ足を運び、時間と人手がかかる作業に頭を悩ませている方も多いはずです。この記事では、その課題を解くScan to BIMという手法を紹介します。わずか7時間でオフィスビルの図面化を実現した取りくみも、あわせてご紹介します。読み終えたとき、改修工事の図面づくりに対する見方が変わるでしょう。
改修工事でなぜ図面トラブルが起きるのか
改修工事に取りくむ際、多くの現場が最初に直面するのが図面の問題です。手元にある図面が現況と合っていなかったり、そもそも残っていなかったりするケースは少なくありません。この章では、図面と現況がずれてしまう背景を見ていきます。さらに、それを補うために行われてきた従来の実測調査が、なぜ時間と手間を要するのかも順に見ていきましょう。改修業務の出発点にある課題を整理しましょう。次の章で紹介する解決策の意味が、より分かりやすくなるはずです。
図面と現況がズレる原因とは?
改修の積み重ねで図面と現況が食いちがい、改修計画の手戻りを招く。
改修工事の現場では、図面にまつわる問題がたびたび担当者を悩ませます。「図面が残っていない」、あるいは「図面はあるが、現況とまるでちがう」というケースです。建物の竣工から年月が経つほど、この問題は深刻になります。なぜでしょうか。たびかさなる改修の履歴が図面に反映されず、紙の青写真しか手元に残っていない状態も少なくありません。設計図書は本来、建物が完成した時点の正しい姿を記録するものです。ですが、増築や改修をくりかえすうちに実態とのちがいが積みかさなり、図面が形だけのものになってしまいます。複数の事業者が時期をずらして改修にかかわった建物もあるでしょう。そうした建物では、誰がどこまで図面を更新したのかさえ追えなくなることもあります。現況を正確に把握できないまま改修計画を立てると、後工程での手直しや手戻りが発生しやすくなります。図面と現況のずれは、改修工事に着手する際にまず最初に乗りこえるべき壁になっているのです。
従来の実測調査が遅い3つの理由
測定範囲の広さ、記録から図面化の手順、測り忘れの再訪問が時間を奪う。
従来、現場のいまの状況をつかむには、地道な実測調査が欠かせませんでした。ここでは、その作業がなぜ時間を要するのか、3つの理由から見ていきましょう。1つ目は、測る範囲の広さです。数人のスタッフが現地に出向くのです。レーザー距離計やメジャーで、壁から壁までの距離や天井の高さを一つひとつ測ります。広い建物では測る場所が数百か所にも及ぶでしょう。人員の確保や日程の調整自体も負担になります。2つ目は、記録から図面にするまでの手順です。野帳に手書きで記録し、事務所に持ちかえってから図面に起こすため、書き直しや確認の手間がかかります。測る人ごとに精度や記録のくせが異なる点も、後工程での見直しを増やす要因です。3つ目は、測り忘れによる再訪問です。「あの梁の厚みを測り忘れた」と後から気づき、現地に戻る手戻りが頻発していました。こうした要因が重なり、従来の手法は改修工事のはじめの段階で大きな負担となっていたのです。
Scan to BIM導入で改修図面はどう変わる?
図面と現況のずれ、そして実測調査の負担という課題があります。これに対して、近年広がっているのがScan to BIMという手法です。この章では、Scan to BIMの仕組みをまず整理します。どのように現況把握を効率化するのか、その考え方を見ていきましょう。続いて、実際の改修工事での効果を紹介します。野原グループが取りくんだ内容とともにお伝えしましょう。さらに、作成したBIMモデルが図面以外にも活用できる点について、3つの方向から見ていきます。
Scan to BIMとは?仕組みを解説
現場をスキャンし点群からBIMモデルへ変換、測り忘れをなくす手法。
この課題を解く方法がScan to BIMです。現場のスキャンからBIMモデリングまでの工程を、デジタル技術で効率化する手法を指します。BIMとは、建物の形や設備の情報をひとつのデータとしてまとめる仕組みのことです。3Dカメラやレーザースキャナーを使い、建物全体を丸ごと計測します。取りこんだデータは点群、そしてBIMモデルへと変換していくのです。空間全体の情報をまとめて持ちかえれます。だからこそ、「測り忘れ」という考え方そのものがなくなるのが大きな特徴でしょう。従来は何度も現地に足を運んで補っていた情報があります。それを一度のスキャンで網羅できる点が、現場の負担を大きく減らす要因となっているのです。撮影自体も専門の担当者でなくても扱える機材が増えており、導入のハードルは年々下がりつつあります。点群データという形で情報を残しておけば、必要な図面の種類が後から増えても安心です。現地に戻らずに対応できるでしょう。
野原グループが7時間で図面化した話
延床2500平方メートルをわずか7時間でスキャンし、図面作成を効率化。
Scan to BIMの効果を示す具体的な話があります。野原グループは、東急コミュニティーが施工するオフィスビルの改修工事を手がけました。3D撮影カメラで取得した点群データからBIMモデルを作成したのです。改修に必要な2D図面の作成を効率化しました。対象は延床面積2500平方メートルほどの建物です。屋外と外構を含めたスキャンの所要時間は約7時間でした。そこから変換したBIMモデルをもとに、平面図や展開図といった複数の2D図面を生みだしています。実際の工事にも活用しています。担当者の評価も具体的です。出力された2D CAD図面はわずかな修正は要したものの、十分な品質であったといいます。延床2500平方メートル規模の建物を、わずか7時間のスキャンで網羅できました。これは際立ったちがいといえるでしょう。複数人で何日もかけていた従来の実測作業と比べると、その差は明らかです。点群データを受けとった側のモデリング作業自体も、想定を上回る速さで進んだとされています。
BIMモデル活用の3つの広がり方
BIMモデルはシミュレーション、積算、プレゼンテーションへ展開できる。
BIMモデルが生みだす価値は、図面だけにとどまりません。ここでは、活用が広がる3つの方向を紹介しましょう。1つ目は、省エネルギーをはじめとするシミュレーションへの活用です。空調や採光、断熱性能などの検討にも、同じモデルをそのまま使えます。2つ目は、積算への活用です。改修にかかる材料や工事量の算出を、モデルにふくまれる寸法や面積の情報から進められます。見積もりの精度向上にもつながるでしょう。3つ目は、プレゼンテーションへの活用です。発注者や関係者への説明資料に、立体的なモデルを使うことで、完成後の姿をより伝わりやすく示せます。一度デジタル化すれば、改修のたびに最新の現況データを持ちつづけられるのです。製造業や建設業のDX支援の現場でも、こうした活用は重視されています。建物のライフサイクルにおいて最も長い維持管理の期間を、丸ごと支える土台になります。最初のスキャンに踏みだすことが、その後の改修業務全体を軽くしていく一歩となるでしょう。
まとめ
改修工事における図面の課題は、図面と現況のずれにありました。さらに、実測調査にかかる時間と手間にもありました。これらを解決する手法がScan to BIMです。3Dカメラやレーザースキャナーで建物全体を一度に計測し、点群データからBIMモデルを作成します。これにより、測り忘れによる再訪問がなくなるのです。野原グループの取りくみでは、延床2500平方メートルの建物をわずか7時間でスキャンしました。図面化を効率化できたのです。さらにBIMモデルは、シミュレーションや積算にも展開できます。プレゼンテーションにも活用できるでしょう。改修後の維持管理まで支える情報資産になるはずです。図面づくりに時間を取られている現場こそ、まずはScan to BIMの導入を検討してみる価値があります。
FAQ
Scan to BIMとは何ですか? 現場をスキャンしてBIMモデルを作る手法です。 3Dカメラやレーザースキャナーで建物を計測し、点群データからBIMモデルへ変換します。改修工事で現況図面がない場合や、現況と図面が合わない場合に役立つ技術です。一度の計測で空間全体の情報を網羅できるため、測りもれを防げます。
従来の実測調査とどこが違うのですか? 計測の網羅性と作業時間に大きな差があります。 従来は数人のスタッフが現地で壁や天井をひとつずつ測り、野帳に記録してから図面に起こしていました。Scan to BIMでは建物全体を一度に計測するため、測りもれによる再訪問が発生しません。延床2500平方メートルの建物でも約7時間で計測が完了した例があります。
BIMとはどのような仕組みですか? 建物の形や設備の情報をひとつのデータにまとめる仕組みです。 従来の2D図面とは異なり、立体的な情報や設備の情報を一体化して管理できます。改修工事では現況を正確に把握する手段として活用されています。図面作成だけでなく、シミュレーションや積算にも応用できます。
Scan to BIMの導入にはどんな機材が必要ですか? 3Dカメラやレーザースキャナーがあれば計測できます。 専門のオペレーターでなくても扱える機材が増えており、導入のハードルは年々下がっています。建物の規模や用途に応じて、機材の種類や計測時間は変わります。導入を検討する際は、施工会社や専門事業者へ相談するとよいでしょう。
作成したBIMモデルは図面以外にも使えますか? シミュレーションや積算、説明資料にも活用できます。 省エネルギーをはじめとするシミュレーション、改修にかかる材料や工事量の積算、発注者への説明資料など、幅広い用途に展開できます。一度デジタル化すれば、改修のたびに最新の現況データを持ち続けられる点も大きな利点です。
野原グループの取りくみではどんな効果がありましたか? 延床2500平方メートルの建物を7時間でスキャンし、図面化を効率化しました。 東急コミュニティーが施工するオフィスビルの改修工事で、3D撮影カメラによる点群データからBIMモデルを作成しました。出力された2D CAD図面はわずかな修正で十分な品質だったとされ、想定より早く納品されたといいます。
Scan to BIMはどんな現場に向いていますか? 図面が残っていない、または現況と合わない改修工事に向いています。 建物の竣工から年月が経ち、改修の履歴が図面に反映されていない現場では特に効果を発揮します。複数の事業者が時期をずらして改修に関わった建物や、稼働中で立ち入り時間が限られる建物でも、効率よく現況を把握できます。
専門用語解説
Scan to BIM:現場をスキャンした点群データからBIMモデルを作る一連の手法です。改修工事で現況を把握する際に、実測の手間を大きく減らせます。
BIM:建物の形や設備の情報をひとつのデータとしてまとめる仕組みです。設計や施工、維持管理まで幅広い場面で活用されています。
点群データ:3Dカメラやレーザースキャナーで計測した、無数の点の集まりからなるデータです。建物の形状をそのまま記録できます。
レーザースキャナー:レーザー光を使って距離や形を計測する機器です。建物全体を短時間で計測できるため、Scan to BIMで広く使われています。
現況:建物の今の状態を指す言葉です。図面が現況と合っていない場合、改修計画にずれが生じやすくなります。
積算:改修や工事にかかる材料や工事量を算出することです。BIMモデルの情報を使うことで、見積もりの精度を高められます。
延床面積:建物の各階の面積をすべて合計した面積です。建物全体の規模を示す目安として使われます。
執筆者プロフィール
小甲 健(Takeshi Kokabu)
AXConstDX株式会社 代表取締役CEO、株式会社OneTechnologyJapan 特別顧問。
製造業・建設業に精通し、ソフトウェア開発歴20年以上を持つ、技術起点の経営者型コンサルタントです。CADを使わない業務構築から大規模なDX推進まで、現場の課題解決に数多く携わってきました。赤字案件率0.5パーセント未満、提案受注率83パーセントという実績を維持しており、現場理解にもとづいた高い実行力を強みとしています。
近年は生成AIを活用した業務改革やDX推進、戦略支援に加え、GX(グリーントランスフォーメーション)を経営とDXに統合した「実装型GX戦略」にも注力しています。脱炭素や省エネ、資源効率化を、ITやデータ、業務設計の視点から収益性と競争力に直結させる支援を行っています。
主な実績や活動は以下のとおりです。
ハーバードビジネスレビューへの寄稿(2回)
シリコンバレー視察(5回以上)、CES視察(1回)
btraxデザイン思考研修(サンフランシスコ)受講
製造業や建設業の現場が抱える図面や業務効率化の課題に対しても、AIとDXの両面から実装に近い視点で向き合うことを大切にしています。




